研究課題
心不全はあらゆる心疾患の終末像であり、心臓のポンプ機能低下による全身臓器のうっ血と低灌流を来たす。肝臓、腎臓、腸管を含む腹部臓器の障害は心不全患者の不良な予後と関連することが示唆されている。しかし、腹部臓器のうっ血と低灌流を非侵襲的かつ定量的に評価する手法とその臨床的意義については確立されていない。そこで本研究では、心不全患者における腹部臓器のうっ血及び低灌流を、腹部超音波検査を用いて定量的に評価する方法について、およびそれらの指標が心不全の治療効果判定や予後予測に有用であるかについて検討を行った。また近年、肝臓由来液性因子であるヘパトカインが、様々な生理活性を有し全身の恒常性維持に重要な役割を果たすことが分かってきた。肝臓のうっ血や低灌流によりヘパトカイン分泌異常が生じて、心不全の病態形成に関与している可能性があるが、その詳細は検討されていない。本研究では心臓-肝臓連関に着目して、複数の血中ヘパトカイン濃度を測定し、心不全におけるうっ血や低灌流のヘパトカイン産生への関与と、ヘパトカインによる心不全病態への影響、およびヘパトカインの心不全、多臓器連関へのバイオマーカーとしての有益性について検討を行った。当院に入院された心不全患者集団、および睡眠時無呼吸症候群などの対照群集団において、腹部超音波検査を施行して肝血行動態の評価を行い、血清から既知のヘパトカインであるselenoprotein-P(Sep-P)を測定し血行動態との関連について評価した。その結果、心不全群では対照群に比較して血清Sep-Pが有意に高値であり、かつ肝臓のうっ血の有無にかかわらず肝低灌流群でSep-Pが高値を呈し、さらにSep-P高値群では低値群に比較して心不全再増悪や入院のイベントが有意に増加していた。Sep-Pは肝臓低灌流により産生が賦活され、心不全増悪に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
ヘパトカインの一つであるselenoprotein-P(Sep-P)は体内のセレン供給に関わる物質であり、糖尿病患者の糖代謝への影響などについて報告がある他、心筋虚血再灌流モデルにおいて有害に作用することなどが報告されている。しかし、心不全病態における臨床的意義については知られていない。当院に入院された心不全患者集団、および睡眠時無呼吸症候群などの対照群集団において、腹部超音波検査を施行して肝血行動態の評価を行い、血清からセレノプロテインPを測定し血行動態との関連について評価した。肝臓の低灌流については腹部動脈の血流速度、うっ血の指標としてshear wave elastography(SWE)値を用いた。結果として、心不全群でのSep-Pは対照群と比較して有意に高値であり、また肝うっ血に関わらず、Sep-Pは肝臓低灌流症例にて有意に高値であった。Sep-Pは、腹部血管の血流速度に加え心拍出量、肝臓の合成能と関与するアルブミンやコリンエステラーゼなどと負の相関を呈した。さらにSep-Pの中央値で比較すると、高値を呈する群は低値群に比して心不全増悪、うっ血性心不全による入院のイベントが有意に高率であった。これらの結果から、肝臓の低灌流によりSep-Pが誘導され、またSep-Pが心筋などに関連して心不全増悪に関与する可能性が示唆された。
上記ヘパトカインのSep-Pは肝臓の低灌流に関連する物質である可能性が示唆されたが、肝うっ血に関する物質は明らかになっていない。また、既知のヘパトカインとしてfetuin-Aがあり、その血中濃度が高いと心筋梗塞や虚血性脳卒中のリスクが有意に上昇するという報告がある。fetuin-AもSep-Pと同様、これまでに心不全の病態に対する影響の詳細な検討はされておらず、fetuin-Aを含む複数のヘパトカインを測定して引き続き解析を行う方針である。
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