研究課題/領域番号 |
20K16538
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研究機関 | 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター |
研究代表者 |
澁谷 修一 国立研究開発法人国立長寿医療研究センター, 老化ストレス応答研究プロジェクトチーム, 研究員 (70866342)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 早老症 / ヘリカーゼ / 細胞老化 |
研究実績の概要 |
新規に作出したWRN/RECQL5 2重欠損マウスは内臓脂肪が顕著に蓄積し、ウェルナー症候群と同様の高インスリン血症を伴う脂質代謝異常を呈することを明らかにしている。これらの結果から、WRNとRECQL5の2重欠損により誘導されるゲノム不安定性が細胞老化を誘導し、脂質代謝異常を誘導することが予想された。実際に2重欠損マウス由来細胞は増殖能低下、SA-β-Gal染色性増加、SASP遺伝子発現増加、核構造異常など、ウェルナー症候群患者細胞でも認められた様々な細胞老化様特徴を示した。また、2重欠損マウスの内臓脂肪組織のRNA-seqによる遺伝子発現プロファイルの網羅的解析では、脂質代謝関連遺伝子に加えてSASPを含む複数の老化関連遺伝子発現も増加した。さらに、2重欠損マウスの脂質代謝異常における老化細胞の寄与を調べるために、老化細胞除去剤によるレスキュー作用を調べた。老化細胞除去作用を有するフラボノイドの一種であるフィセチンは2重欠損細胞の細胞数を減少させ、老化細胞除去作用が認められた。また、フィセチンを投与した2重欠損マウスは体重および内臓脂肪量が減少し、脂質代謝異常の改善作用を示した。 以上の結果から、WRNとRECQL5の2重欠損により誘導される老化細胞蓄積が起因となり脂質代謝異常を引き起こすことが示唆された。さらに老化細胞をターゲットとしたウェルナー早老症の治療戦略の可能性も見い出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では1-2年目においてWRNとRECQL5の2重欠損により誘導される細胞老化様表現型を解析することを計画した。WRN/RECQL5 2重欠損マウス由来細胞は、増殖能低下、SA-β-Galやγ-H2AX発現などの老化マーカーが増加した。さらに、2重欠損細胞はSASP遺伝子発現の増加、核構造異常、および核関連タンパク質発現の低下などの老化細胞様特徴を呈することを明らかにした。これらはウェルナー症候群患者細胞で認められている老化細胞様特徴と一致した。内臓脂肪組織におけるRNA-seqの詳細解析においても脂質代謝関連遺伝子に加えてSASPを含む複数の老化関連遺伝子発現が増加していたことから、老化細胞の蓄積を起因とする組織異常が脂質代謝異常を引き起こすことが示唆された。近年研究が進んでいる老化細胞除去による病態改善戦略に着目し、老化細胞除去作用を有するフラボノイド類の一種であるフィセチンを2重欠損細胞に添加したところ有意に老化細胞数が減少し、2重欠損細胞に対する老化細胞除去効果を示した。さらに、フィセチン投与は2重欠損マウスの体重および内臓脂肪を有意に減少させた。これらの結果は、ウェルナー早老症における組織異常は老化細胞の除去または正常化により可逆的に調節可能であることを示唆した。 以上の進捗状況から、WRN/RECQL5 2重欠損により誘導される細胞老化を細胞および組織レベルで明らかにし、ウェルナー早老病態発症メカニズム解明と治療戦略の一端をとらえることができたことから概ね計画通りに研究が進んでいる。 今後は脂質代謝異常の詳細な分子メカニズムを明らかにする必要がある。現在は2重欠損マウス由来脂肪細胞の培養および分化プロトコールを確立しつつあり、脂肪細胞の細胞老化および脂質代謝プロファイルも評価する計画である。
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今後の研究の推進方策 |
WRN/RECQL5 2重欠損マウス由来細胞および内臓脂肪組織はウェルナー症候群患者細胞と同様の細胞老化を呈することを明らかにし、新規ウェルナー症候群モデルとしての有用性が認められた。今後は、LC-MSでのリピドミクス解析でRECQL5欠失で誘導される脂質分子構成変化などを分析し、脂質代謝異常の分子メカニズムを明らかにする。さらに、2重欠損マウス由来線維芽細胞及び脂肪組織を野生型マウスに移植し、細胞老化および脂質代謝異常誘導性を評価する。また、RECQL5を発現ベクター導入により再発現させ、脂質代謝の正常化作用を探る。本モデルマウスにおいて老化細胞誘導と脂質代謝異常の分子メカニズムを明らかにすることができれば、ウェルナー症候群発症機構解明の一端となり得る。 ウェルナー症候群に対する治療法は未だ確立されていないが、本研究の中で老化細胞をターゲットとした治療戦略の可能性が見いだされた。本モデルマウスの他組織においても老化細胞と組織異常の関連も明らかにし、老化細胞を標的とする治療法の応用性についてさらに検証する必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
成果発表を予定していた学術集会が中止となったため次年度使用額が生じた。次年度に生化学試薬費として使用する予定である。
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