研究課題/領域番号 |
20K16540
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター) |
研究代表者 |
西嶋 智洋 独立行政法人国立病院機構(九州がんセンター臨床研究センター), その他部局等, 老年腫瘍科医師 (20840549)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 高齢者総合的機能評価 / 術後合併症 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本人の高齢がん患者において「高齢者総合的機能評価(Comprehensive Geriatric Assessment:CGA)」の有用性を評価することである。CGAを用いる一つの大きな理由は、患者の予備能力にあった治療を選択することである。 本年度は、CGAを用いて術前に評価した高齢がん患者の手術の忍容性と術後アウトカムについて検討した。老年腫瘍科で術前にCGAをおこない、その後待機的手術を受けた患者を対象とした。CGAに基づいて一般高齢者の術後合併症リスクを予測するツールとして開発されたRobinson Frailty Score (RFS, Robinson Am J Surg. 2013) を耐術能の指標として使用した。RFSは問題がある項目数により、リスクを3段階、Fit (低リスク=スコア0-1)、Pre-Frail(中リスク=スコア2-3)、Frail(高リスク=スコア4-7)に分類する。 複合エンドポイントとして術後の有害事象(術後合併症と術後の施設への退院)を評価した。RFSによって、Fit (低リスク) 62%、Pre-Frail(中リスク)26%、Frail(高リスク)11%に分類された。有害事象発生頻度は、RFSのFit群で25%、Pre-Frail群で49%、そしてFrail群で77%であった。 CGAの結果に基づくRFSは高齢者がん患者においても、そのスコアに基づく予備能力のカテゴリ(Fit/Pre-Frail/Frail)と術後有害事象の発症に有意な正の相関を認めた。このため、実臨床において有用な高齢がん患者の術後有害事象の予測ツールであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的であるCGAの有用性評価の一つとして、CGAに基づいた予備能力(Robinson Frailty ScoreによるFit/Pre-Frail/Frail)と術後有害事象を検討した。この結果を、国内外の学術集会(JASCC 2020 (日本がんサポーティブケア学会), ASCO 2020 (米国臨床腫瘍学会))で発表し、さらにESSO (欧州外科腫瘍学会)のofficial journal EJSO (European Journal of Surgical Oncology)に論文発表した。 CGAを利用した治療方針決定に関する患者満足度そしてCGAによるケアを受けた後のQOLなどを調査する前向き観察研究プロトコールを作成し、IRBにおいて承認を受け、患者の登録を開始した。当初、患者満足度評価法として先行研究で使用された「Health Care Climate Questionnaire (HCCQ)」の使用を検討していたが、更に検討を重ねた結果、治療方針の決定における患者満足度をより直接的に評価できる「CollaboRATE」という評価方法を用いることとした。わが国で使用可能な日本語版がなかったため、「CollaboRATE」を開発したElwynに許可を取り、開発者の定める方法に従って日本語訳の開発をおこない、本研究に使用できるようにした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究においてCGAに基づいた術前の予備能力の評価方法としてRobinson Frailty Scoreの有用性を示したが、手術のみならず、化学療法など他の治療選択肢を考慮している高齢がん患者にも使用可能な、CGAに基づいた予備能力の評価方法の開発に取り組む。このツールの開発によって、より客観的に予備能力を評価して、一人ひとりに最適な個別化医療を選択につなげたいと考えている。 治療方針の決定などCGAの有用性を評価することを目的とした前向き観察研究に関しては、患者の登録を継続する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額は、2,527円と極小額であり、次年度に適切に使用する予定である。
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