遺伝性早老症ウェルナー症候群は、一般的なヒトの老化に見られるような症状(白内障、糖尿病、悪性腫瘍など)を若年で呈する一方、間葉系組織を中心とした臓器に、一般老化では見られないような特有の症状(難治性皮膚潰瘍、肉腫など)を呈するが、その原因は明らかではない。本研究では、患者を苦しめる主要な要因の一つである難治性皮膚潰瘍に焦点を当て、老化関連エクソソームとの関連について研究を進める。我々は、これまでに8名のWS患者由来体細胞に山中4因子を導 入し、iPS細胞を樹立し、間葉系幹細胞(MSC)へと分化しており、以下の予備的データを得ている。 1.健常MSCに比して、WS-MSCは早期老化徴候を示す 2.健常およびWS-MSCを、糖尿病SCIDマウスの皮膚潰瘍に皮下移植すると、健常MSCに比して、WS-MSCでは治癒促進効果が低下している 3.WS-MSCでは老化関連マイクロRNAが有意に高発現している 4.WS患者のエクソソームには老化関連マイクロRNAが有意に高発現している 5.WS-MSCではVEGFの分泌低下、炎症関連因子の分泌亢進が見られる 6.WS-MSCとVEGFの皮膚潰瘍部位への混合注射では、健常MSCと同等の、また、VEGF単独注射よりも優れた創傷治癒効果が見られる これらの結果から、WS-MSCにおけるVEGFシグナルの異常が示唆され、VEGF添加が、WS-MSCに何らかの作用を及ぼしている可能性がある。今後はこれらの知見を発展させ、治療開発へと導きたい。
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