研究課題/領域番号 |
20K16547
|
研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
金重 里沙 山口大学, 大学院医学系研究科, 助教 (30844104)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 抗リン脂質抗体 / 抗カルジオリピン抗体 / 抗β2-グリコプロテインI抗体 / 抗カルジオリピン/β2-グリコプロテインI抗体 / 抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体 / フローサイトメトリー |
研究実績の概要 |
抗リン脂質抗体症候群(APS)は血中に抗リン脂質抗体が出現することにより、動・静脈血栓症や妊娠合併症といった多彩な合併症を引き起こす自己免疫疾患である。APSの中でも全身性エリテマトーデス(SLE)に合併する二次性APS(SLE/APS)は、重篤かつ多彩な血栓性合併症を繰り返し発症することが知られている。 本研究は抗リン脂質抗体による種々の血栓形成作用並びに細胞障害作用の解明を目的としている。令和2年度は、単球に対しプライミング作用を有する因子を探索するとともに、プライミング処理により、後続刺激である抗リン脂質抗体による血栓形成作用が亢進あるいは抑制される否か検証した。 ヒト末梢血単核細胞(PBMC)培養刺激実験系にて、まず単核球を各種サイトカイン(TNF-α・IL-1β・IFN-γ・IL-10)で前処理(プライミング処理)した。プライミング処理後、SLE/APS患者由来のIgG-抗リン脂質抗体にてPBMCを刺激し、単球表面組織因子(TF)の発現をフローサイトメトリー解析した。 炎症性サイトカインであるTNF-α・IL-1β及びIFN-γで処理後に、IgG-抗リン脂質抗体刺激を行うと、TFの発現が増加することを確認した。一方で、抗炎症サイトカインであるIL-10による前処理後にIgG-抗リン脂質抗体刺激を行うと、単球表面のTF発現が抑制されることを確認した。 SLE患者では,血管炎をベースに血栓症が引き起こされることが知られており、炎症部位では局所的にサイトカイン等の炎症メディエーターが高値であると推測される。その結果、サイトカインや自己抗体の作用により慢性的に単球が刺激され、さらに抗リン脂質抗体が存在することにより、単球表面TF発現を中心とする血栓形成作用が増幅される可能性を見出した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の研究実施計画は、単球に対しプライミング作用を有する因子の探索および、プライミング処理後のIgG-抗リン脂質抗体による単球への作用の検討を中心に進めることであった。 本検討において、IgG-抗リン脂質抗体に対し、ポジティブのプライミング作用を有する因子(TNF-α・IL-1β・IFN-γ)とネガティブのプライミング作用を有する因子(IL-10)が存在することを明らかにした。
|
今後の研究の推進方策 |
現在までに、単球に対しプライミング作用を有する因子を特定し、プライミング処理後のIgG-抗リン脂質抗体による単球表面組織因子(TF)の発現増強作用を確認した。今後はプライミングによる細胞障害作用に関しても検討していく予定である。 今年度以降はIgG-抗リン脂質抗体を用いたヒト末梢血単核細胞/単球株培養刺激実験系にて、細胞表面組織因子発現及び各種サイトカインの産生等を促進させる抗リン脂質抗体のタイプおよび組み合わせを検討する。さらに、抗リン脂質抗体による血栓形成作用がどのような細胞内シグナル伝達経路を経て惹起されるのか、あるいは抗リン脂質抗体を認識する細胞表面分子等を、各種阻害剤を用いて解明する。また、単核細胞のみならず、好中球に対する抗リン脂質抗体作用を免疫染色やフローサイトメトリー解析等を行っていく予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、参加予定であった学会が中止あるいはオンライン開催となり、旅費が発生しなかったため余剰が生じた。未使用額については、令和3年度の試薬購入と旅費の一部に充てる。
|