抗リン脂質抗体症候群(APS)は血中に抗リン脂質抗体(aPL)が出現することにより、動・静脈血栓症や妊娠合併症等を引き起こす自己免疫疾患である。本研究はaPLによる種々の血栓形成・細胞障害作用の解明を目的として実施した。 最初に単球に対しプライミング作用を有する因子の探索並びに、プライミング処理により後続刺激(SLE/APS患者由来aPL)による血栓形成作用が亢進あるいは抑制されるか検証した。その結果、炎症性サイトカインはaPLによる単球表面組織因子(TF)発現に対してポジティブのプライミング(PP)作用を有し、抗炎症性サイトカインはネガティブの作用を有することを確認した。SLE患者では,血管炎箇所などで局所的にサイトカイン等によるPP作用を受けており、さらにaPLが存在することにより、単球表面TF発現を中心とする血栓形成作用が増幅される可能性を見出した。 次に、aPLが認識する細胞表面分子を検討した結果、単球表面CD14抗原がaPL刺激によりshedding する現象を捉えた。さらに、単球をanti-CD14mAbで処理することで、aPL刺激によるTF発現が有意に抑制されることを明らかにした。これらの結果から、aPLによる単球TF発現にCD14抗原が関与していることが示唆された。 令和4年度は、aPLの好中球細胞外トラップ(NETs)形成への関与について検討した。多核顆粒球(PMNC)をaPLで刺激することで、死細胞割合・好中球エラスターゼ(NE)活性・ROS産生細胞の増加が引き起こされることを明らかにした。さらにaPL刺激により、PMNCの膨化・NEの細胞外放出・細胞平均面積が増加することを免疫蛍光染色にて明らかにした。 APS患者では、aPLによりNETsを中心とする血栓形成作用が引き起こされるとともに単球表面TF発現を中心とする血栓形成作用が増幅されると推測できる。
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