研究実績の概要 |
尿酸は痛風や高尿酸血症の原因因子として知られ、心血管疾患との関連が注目されている。一方で、強力な抗酸化物質として神経保護作用を持つことが知られており、脳梗塞巣の縮小に尿酸投与が有用であったという報告がある。我々は、尿酸の輸送体である URAT1,GLUT9が脈絡叢に存在する可能性をヒト剖検脳で新規に見出し報告した(Neurosci Lett 659, 99-103, 2017)。この研究から尿酸が全身循環から脳内に血液脳関門を通過していこうしうると考え、「血清尿酸値が高値の患者は、脳脊髄液中の尿酸値が高くなるため、脳室周囲組織において抗酸化作用、神経保護作用により認知機能障害を起こしにくい」との仮説を立て、高侵襲手術後に集中治療室(ICU)に入室した2071名を対象に血清尿酸値と術後せん妄に関する後ろ向き観察研究を行った。中枢神経疾患の既往がある、脳神経外科術後、複数回の手術を受けた、緊急手術を受けた、末期腎不全などの患者を除外し、558名で統計学的解析を行なった。ICU患者におけるせん妄モニタリング手段であるCAM-ICUをせん妄評価方法とした。CAM-ICU(+)の患者は78名(約14%)であった。T検定、Mann-Whitney U検定の単変量解析では年齢、重症度(ASA-PS,APACHEⅡスコア)、術中オピオイド総量などに有意差があったが、傾向スコア分析では、血清尿酸値が低いことが術後せん妄のリスクファクターとはならなかった。血清尿酸/クレアチニン比と術後せん妄で有意差がないか再検討をすすめている。また尿酸輸送体であるOAT10に対する抗体を用いて、糖尿病やアルツハイマー病を含めたヒト剖検脳でこれらの分子の発現の免疫組織化学的な調査を進めている。
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