前年度に引き続き、がん患者において増加する尿中遊離糖鎖の探索を進めた。糖鎖抽出からピリジルアミノ(PA)標識、精製までは同様の手法で行った。分析の範囲を以前よりも高分子量の糖鎖画分にまで広げた結果、分枝・伸長構造とフコース・シアル酸を有するラクトース-コア糖鎖および遊離N-結合型糖鎖が増加傾向を示していることが明らかとなった。今後、この高分子量画分においてさらに微量成分にまで解析を進めることで、より特異的な構造が見つかる可能性がある。 逆相HPLC-質量分析(選択反応モニタリング、SRM)によるPA化糖鎖測定系の最適化も進めた。20~30分の分離時間で100種類程度のPA化標識された尿中遊離糖鎖の一括した測定が可能となった。移動相添加剤としては、一般的に用いられるギ酸を使用することで、2~20糖程度までの広い範囲の分子サイズを検出することができた。一方で2~8糖程度の比較的小さな糖鎖では、酢酸-トリエチルアミンpH6.0を添加した移動相を使用することで、ギ酸の場合よりもHPLC保持・分離効率および質量分析計における感度がより高い糖鎖検出が可能であった。がん患者(胃、大腸、膵、胆管がん)と健常者(非担がん)の遊離糖鎖レベルをSRMで測定・比較した結果、前述のように高分子量の糖鎖画分に由来する糖鎖の増加傾向が認められた。興味深いことに、進行がんであるにも関わらずCA19-9(またはDuPan-2)およびCEAを含む既存の腫瘍マーカーが陰性の患者の一部においても増加する遊離糖鎖があり、これらの糖鎖は、そのような患者のための補助的なマーカーとして有用となる可能性がある。
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