研究課題/領域番号 |
20K16574
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 大輔 名古屋大学, 医学系研究科, 助教 (10712292)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | アルツハイマー型認知症 / オリゴデンドロサイト / 白質機能障害 / 2光子顕微鏡 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー型認知症(AD)の病態解明・治療法開発は喫緊の課題である。現在、ADの根本的治療を目指し、アミロイドβタンパク質(Aβ)を標的とした治療法の開発が進められている。これに加えて近年、頭部MRIで描出される白質病変が、家族性ADの原因遺伝子保因者では認知症発症前から出現すること、さらにAD患者では有意に認知機能低下を促進させる因子になることが明らかとなり、白質機能のAD病態への関与が注目されている。白質は髄鞘化された軸索で構成され、神経伝導速度を制御することで神経回路における情報処理の効率化を図っている。さらに頭部MRIを用いたヒトの研究により、訓練で白質の信号強度が増強すること、さらにはマウスを用いた研究により、運動学習に伴うMRIでの白質の信号変化は、髄鞘関連タンパク質の一つであるミエリン塩基性タンパク質(MBP)の変化量と相関することも証明されたため、神経活動依存的な白質の可塑的構造変化が大変注目されている。しかしながら、髄鞘を形成するオリゴデンドロサイト(OL)およびその前駆細胞(OPC)が神経活動に対してどのような機能応答を示すのか、その詳細は分かっていない。そこで本研究では、2光子顕微鏡を用いてOLおよびOPCの神経活動依存的に示す機能応答の特性を解明することでADモデルマウスにおける変化を抽出する。そして、この機能応答の障害が白質機能低下を惹起するのか検証し、機能応答に関わる分子メカニズムを明らかにすることで白質機能を標的とした治療法を確立することを目的とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず初めに、学習障害がいつ出現するか確認するために、Y字迷路試験を用いて経時的に学習機能を評価した。その結果、6か月齢のADモデルマウスにおいて、alternationの障害を認めた。次に、髄鞘化の程度を定量的PCR法により評価したところ、6か月齢のADモデルマウスにおいて、わずかにミエリン調節因子の発現が低下していた。そこで、髄鞘をより詳細に評価するために、電子顕微鏡での観察を行った。その結果、G-ratioに変化を認めなかったが、6か月齢ADモデルマウスではWTマウスに比べ、部分的に髄鞘が損傷されている軸索が多く存在することが判明した。次に2光子カルシウムイメージングを用いて、WTマウスおよびADモデルマウスのOL/OPCの機能応答を経時的に評価した。その結果、2か月齢、4か月齢では、OL/OPCのカルシウム応答頻度および強度にWTマウスとADマウス間で有意差を認めなかったが、6か月齢ではOL/OPCのカルシウム応答頻度および強度が、WTマウスに比べADモデルマウスで有意に上昇していた。さらに、このOL/OPCのカルシウム応答頻度および強度はATP阻害剤投与により低下することが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
ADモデルマウスでは6か月齢で学習障害、微細な髄鞘の構造変化、OL/OPCのカルシウム応答強度の上昇を認めた。さらに、このカルシウム応答強度の上昇はATP阻害剤投与により低下したことから、このことは学習障害が出現する時期の前後で、OL/OPCの機能応答および髄鞘の構造変化が起こっていることを意味しており、アルツハイマー病態の早い時期でOL/OPCが障害されている可能性を示唆する。今後、OL/OPC機能を直接制御することで、ADモデルマウスの白質機能および学習機能が改善するのかを検証する予定である。
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