研究課題
本研究では、頭蓋内電極を使用して、皮質間結合を有向性に評価する電気的線維追跡法であるcortico-cortical evoked potential (CCEP)により電気生理的コネクトームを作成し、皮質の有する高次脳機能や、てんかん発作関連部位におけるネットワーク構造の特徴を明らかにすることを目標としている。2020年度の成果としては①正常脳機能においては、高次運動皮質や言語関連の皮質は一次運動感覚野と比較してoutbound/inboundの値がそれぞれ大きくなることを示した(日本神経科学大会2020)。また高次の機能野が一次の運動感覚野より多くのoutbound/inboundを持つという特徴は早い潜時の誘発電位(N1電位)よりも遅い潜時の誘発電位(N2電位)でより明らかになることを発表予定である(日本神経学会2021)。②てんかん原性との関連については、てんかん発作焦点では入力される誘発電位振幅の総和が焦点以外の部位よりも大きくなること(日本神経学会2020)、焦点切除術後に発作再発を認めた症例ではネットワーク全体の密度が低下していること(日本臨床神経生理学会2020)を示した、また発作焦点では遅い潜時の誘発電位の振幅はむしろ低下していることを発表予定である(Asian&Oceanian Epilepsy Congress2021)。正常脳機能におけるネットワーク構造とてんかんによるその正常ネットワーク構造の変容を明らかにすることができている。今後本研究により、ヒト脳における病態ネットワーク/機能ネットワーク内での各皮質のクラスター性、中心性等の構造特徴を解明し、さらに皮質機能や皮質切除後の機能障害、発作抑制等の臨床情報と合わせて検討することで、より確実にてんかん発作の伝播を阻害し、高次機能を保つことを可能にする臨床的指標の確立を目指す。
2: おおむね順調に進展している
研究計画においては2020年度の目標として「硬膜下電極留置症例において、特に高次運動、言語機能を有する皮質におけるinbound/outbound、中心性の多寡等の皮質間ネットワーク構造の特徴を明らかにする。」、2021年度の目標として「てんかん発作起始部、発作起始部と発作が伝播した電極間、発作間欠期にてんかん性放電を認める領域における同様のネットワーク構造の特徴を明らかにする。」としていた。研究実績に記載したように2020年度の目標であった高次運動、言語皮質におけるネットワーク構造の特徴はすでに明らかにすることができている。また2021年度の目標であったてんかん発作の焦点におけるネットワーク構造の特徴・変容についてもすでに結果を出すことができている。COVID-19感染症の影響で症例の蓄積や共同研究の推進で遅れた部分はあったが、研究内容としては概ね順調に進展していると考えている。
研究計画書に記載通り、2021年度にはてんかん発作起始部、発作起始部と発作が伝播した電極間、発作間欠期にてんかん性放電を認める領域における同様のネットワーク構造の特徴を明らかにすることを引き続き目指していく。また可能であれば2022年度の目標としていた深部電極を含めて同様のネットワークを作成し、切除された脳領域のネットワークの構造と切除後の脳機能の障害、てんかん発作再発の有無も検討することで、脳機能温存、てんかん発作治療のためのネットワークに関する臨床的指標を作成することも着手していく。COVID-19感染症の影響で遅れていた症例の蓄積や共同研究の推進も進めていく。
COVID-19の感染症に伴う緊急事態宣言のため患者数が減少し、対象となる患者がリクルートできなかった。また施設間でのデータの受け渡しに関しても遅延が生じているため解析が想定していたよりも遅れていた。また学会発表や共同研究打ち合わせなども現地参加が難しかったため旅費をほとんど使用しなかったため使用額との差が生じた。繰り越された分は解析機器の購入や人件費、論文準備のための費用に当てる予定である。
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