筋萎縮性側索硬化症をはじめとする神経変性疾患は、細胞内に蛋白凝集体を呈するが、分子生物学的な病態が未だ明らかでなく、有効な治療法がない。ここ数年、ALSや関連疾患に、low-complexity(LC)ドメインの機能異常が関連していることが明らかとなりつつある。LC タンパク質のアミノ酸組成は数種類に偏り、一般的なタンパク質が取るような高次構造を形成せず、構造や機能に関しては長年謎に包まれていた。近年、FUSやhnRNPA2に代表されるRNA結合タンパク質のLCドメインは、liquid-like dropletsやヒドロゲルを形成することが報告された。細胞の中にはミトコンドリアや小胞体のように膜によって分画されるオルガネラに加えて、核小体やRNA顆粒などのような膜を持たないオルガネラが存在し、その形成と制御にはLC 配列を有するタンパク質によるcross-βポリマー形成や液-液相分離が重要であることが徐々に明らかになってきた。細胞がストレス環境にさらされると、ストレス顆粒と呼ばれるRNAに富む膜を持たないオルガネラが形成され、FUSなどのLCドメインをもつRNA結合タンパクが蓄積するが、異常なヒドロゲルが形成され細胞質内での線維形成が促進されると、ALSなどの神経変性疾患において封入体を形成する。またFUSやhnRNPA2などに生じた遺伝子変異がALSの原因となることも報告されている。本研究では、液-液相分離する蛋白質、および制御機能をもつシャペロンに関して、分野横断的解析を行うことにより、ALSをはじめとする神経変性疾患の病態発症機序を解明し、治療法の開発に繋げることを目指す。最終年度である本年は、前年度までに確立したFUSやhnRNPA2などのLCドメインを持つタンパク質の精製系を用いて、相分離シャペロンや遺伝子変異由来産物等による影響を評価し、論文発表を行った。
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