ZEB2遺伝子欠損により生じるMowat-Wilson症候群は、難治性てんかん、小脳症、精神発達遅滞、腎低形成、腸管の運動障害(Hirschsprung病)など、多彩な症状をきたす先天性中枢神経疾患である.病態機序解明・治療法開発に向けて,脳オルガノイドを用いた疾患モデルを作成し,その表現型を解析することを目的とした.2020年度,申請者らはCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集を行い,ZEB2ノックアウト(KO)ヒトES細胞を作製し,そのES細胞を用いて大脳皮質オルガノイド(CO),脳幹オルガノイド(BSO)を樹立,定量PCR,免疫組織化学を用いて評価した.まずZEB-KO COにおいては野生型(WT)と比較してオルガノイド径が有意に小さかった.また,WTでは突起を有するなど不整な形態を示すのに対し,ZEB2-KO COは平滑な円形を呈していた.ZEB2-KO COの免疫組織化学では,activated caspase-3陽性apoptotic cellsがWTに比較して有意に増加していた.BSOに関しては,その作製法およびWTでは黒色斑がみられることを2020年に論文報告した.このBSOをもとにZEB2-KO BSOを作製し,特異なフェノタイプを確認した.さらに両者のqPCR解析からフェノタイプを説明しうるタンパク発現の低下がZEB2-KO BSOで見られた.次にWT-BSOとZEB2KO-BSOを用いて一細胞RNA sequencingを行った.その結果,ZEB2-KO BSOでは,pluripotencyや,神経堤細胞の移動に関連する遺伝子群の発現がWT-BSOと比較して低下していた.また,上記表現型として見られた特異的なフェノタイプを反映する遺伝子発現の低下も確認された.これらの所見は,ZEB2遺伝子の欠損に基づくMWSの病態を反映したものと考えられた.
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