研究実績の概要 |
発作間欠期てんかん性放電(IED)が認知機能に与える影響を検討することを主眼とし、以下のように多面的に研究を進めた。 (1)長期的影響については、長期忘却促進を評価する新しい神経心理課題を作成した。その結果、自覚的な記憶障害と相関する長期記憶障害を特徴づけることが出来た(川口ら,2023)。さらに、てんかんの治療により長期記憶障害が改善しうることも明らかにした(萩原ら,2024)。(2)近年、健忘発作を特徴とする高齢発症てんかんの報告が増加しているが、健忘発作の定義が確立しておらず、混乱が生じている。我々は頭蓋内脳波中に確認された純粋健忘発作の例を集め、純粋健忘発作の定義づけを行いつつ、そのメカニズムを提唱した(Kawaguchi, 2024)。(3)IEDの長期的影響の評価においては各種変数を統制する必要がある。我々はてんかん外科術後症例において、発作消失が得られているなど条件を統制したうえでその長期的影響を評価し、IEDの記憶機能への影響は有意でないと明らかにした。 (4)短期的影響については、頭蓋内脳波の件数が減少していること、IEDの即時的な悪影響を示す論文が発表されたことから、計画した研究の意義は低下した。しかし、IEDの影響がない課題があること、課題施行によりIEDが抑制される場合があるなど検討すべき問題は残されており、今後も症例の収集は継続する。(5)認知機能障害を呈するてんかん患者の一部は自己免疫性脳炎であるが見逃されていることが多い。その臨床的特徴を明らかにし、てんかんが前景に立つ自己免疫性脳炎を診断するためのバイオマーカーの探索を開始した。 以上のように、本研究では発作間欠期てんかん性放電の認知機能への影響という観点から、記憶のメカニズム解明につながる検討を行い、さらにてんかんの診断・治療に関わる分野まで展開し、幅広い成果を挙げつつある。
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