本研究を通して、ペンチレンテトラゾールを用いたキンドリングにおいて、短期間では、痙攣抵抗性を誘導し、長期間では痙攣感受性を増加させるという反対の現象を誘導することが明らかになった。 このときの脳内変化では、短期間投与後の海馬CA1のソマトスタチン陽性細胞においてGABA合成酵素の1つであるGAD65が増加していることが分かった。一方で、GAD67、GABA受容体やトランスポーターには顕著な変化は見られなかった。長期間投与ではGAD65発現はコントロール群と同程度まで戻っていた。ソマトスタチン陽性細胞は定常状態ではGAD65の発現量は他のサブタイプと比べて、多くはないが、痙攣誘発刺激に応答して、一過性にGAD65を増やし、海馬神経回路の抑制に関与していると考えられる。また、これらのダイナミックな変化は、抑制性細胞数の変化ではなく、発現する酵素量による可逆的な変化である。 行動変化においては短期間のPTZ投与で不安様行動が減少していることが、オープンフィールド試験、明暗箱試験、高架式十字迷路試験で、明らかになった。この抗不安効果は長期投与後にはベースまで戻っており、痙攣ステージやGAD65の発現変化と相関関係を示した。 これらの結果から、連続的な刺激が脳に加えられると、抑制性細胞の中のソマトスタチン陽性細胞特異的にGAD65が増加し、それが痙攣や不安様行動の抑制に関与している可能性が示唆された。今後の研究では、この経路の続きをを更に追及していく必要がある。
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