研究課題/領域番号 |
20K16623
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
廣澤 徹 金沢大学, 子どものこころの発達研究センター, 特任助教 (80645127)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 脳磁図 / グラフ理論 / 脳内ネットワーク |
研究実績の概要 |
令和2年4月から令和2年10月に渡り被験者を募集した。精神運動興奮がひどく検査を遂行できなかったものをのぞき70人の自閉スペクトラム症(ASD)、19人の定型発達児童を研究に組み入れた。ASDの診断はADOS-Gによって行われ、てんかんを合併する児、薬剤 を内服している児、他の身体疾患および精神疾患を合併する児、ASDと診断を受けた同胞がいる健常児が除外された。K-ABCで児の知的能力を認知処理過程と知識・技能の習得度の両面から評価し、社会的なコミュニケーションと、他者との相互交流 、および反復的な行動様式の程度をSRSを用いて評価した。小児用脳磁計により安静時の脳磁図を10分間計測する。被験者の年齢が若かったこともありMRIは撮像できなかった。そこで解析に当たっては、我々の研究グループが以前作成した脳のテンプレートから、一人一人の児童の脳に最も近いものを抽出するアルゴリズムを使い、最適な脳テンプレートを割り当てた。 脳磁図データを目視で読影したところ、19人のASD児にてんかん性の突発波が見られた。一方、定型発達児童は全員が正常脳磁図出会った。当初は令和2年11月から令和3年6月にかけて行う予定であった解析である、脳磁図データの前処理(0.3から200Hzでバンドパスフィルタを加え、独立成分分析を用いて眼球運動、心電図、 筋電図、チャンネルノイズのアーティファクトを除去する。データは6 秒ごとのエポックに区切る)を行った。γオシレーションの定量化と統計解析を行ったが、結果として有意な差を検出することはできなかった。そこで解析方針を変更、脳のネットワークをPhase Lag Indexで評価し、グラフ理論を応用して脳のネットワークの特性を定量化することとした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初より解析が早く進行した。予定していたγオシレーションの解析では3群(ASDにてんかん性突発波を伴うもの、ASDにてんかん性突発波を伴わないもの、定型発達児童)に有意な差は検出できなかった。そこで方針を転換し、脳の機能的ネットワークに注目、グラフ理論を応用しネットワークの特徴を定量化し群間比較することで3群の間に特定のパターンを見出した。具体的には、Clustering Coefficientがてんかん性突発波を伴わないASDでは他の2群より低く、てんかん性突発波を伴うASDと定型発達児には差がなかった。てんかん性突発波を伴うASDでは、Clustering Coefficientが高いほどASD症状が強いという結果が得られた。これはASDの病態に迫る極めて重要な知見であるため、得られた結果を論文化し、この分野の主要な国際誌の一つであるBrain Communicationsに投稿、現在査読を受けている。
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今後の研究の推進方策 |
一部の年齢が高い児童は、頭部MRIを撮像することができた(ASD児 21人、定型発達児 20人)。これらの被験者を対象に、当初の計画通り改めてγオシレーションを解析する。具体的には、脳磁図データの前処理(0.3から200Hzでバンドパスフィルタを加え、独立成分分析を用いて眼球運動、心電図、 筋電図、チャンネルノイズのアーティファクトを除去する。データは6 秒ごとのエポックに区切る)、γオシレーションの定量化(6秒の各エ ポックに対し脳の各部位ごとの時間周波数表現を、Morlet ウェーブレットを用いて計算する。得られた時間周波数表現を各被験者毎に全ての エポックで平均し、70 から90Hz のγ帯域における最大のパワー値と周波数をγオシレーションの指標として採用する)、線形混合モデルを用いた統計解析を行う。得られた結果を論文化し、この分野のトップジャーナルの一つであるNeuroImage に投稿 する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初出席を予定していたいくつかの国内学会/国際学会が新型コロナ感染症の流行に伴い全て中止になった。また公募し画像検査や診察を行う予定であった被験者の一部が、新型コロナ感染症の流行に伴い研究に参加することができなかった。また当初検査機器の維持/使用費用として準備していた資金の一部は、新型コロナ感染症の流行に伴う施設の閉鎖のため、使用しなかった。
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