研究課題/領域番号 |
20K16625
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研究機関 | 名古屋工業大学 |
研究代表者 |
石塚 佳奈子 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (90801449)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経発達症 / 抑うつ症状 / 注意欠如多動症 / 自閉スペクトラム症 / 不安症 / 難治性うつ病 / 自己記入式評価尺度 / 遺伝カウンセリング |
研究実績の概要 |
自閉スペクトラム症や注意欠如多動症をはじめとする神経発達症の診断評価において,当事者からの主観的な訴えは重要な情報源の一つである。ゆえに抑うつ症状や不安症状が自閉スペクトラム症や注意欠如多動症に関連した症状の自覚的な認識に影響する場合,過剰診断や誤診が懸念される。本研究課題の学術的問いの解明に迫るべく,今年度は,自覚的な神経発達症特性と不安・抑うつ症状の関連を明らかにすることに注力した。
主訴がF3・F4の成人患者を対象として,初診時と12週後に自己記入式評価尺度(BDI,AQ,ASRS)に回答を得た。うつ病寛解群ではAQの総得点および一部の下位尺度得点が統計的に有意に低下した。持続性うつ病群ではそのような変化は認められなかった。BDIとASRSのスコアには相関があり(相関係数0.5-0.6),抑うつ症状が改善した群ほど明確にASRSのスクリーニング陽性の頻度が減った。一方で,初診から12週を経過しても抑うつ症状が持続した群では,20%以上の人が依然としてASRSのスクリーニング陽性の基準を満たした。以上の成果は英文学術誌に投稿して受理された。これらの知見を踏まえ,日本精神神経学会学術総会においてワークショップを行い,自己記入式評価尺度を活用する上での注意点を広く精神科医と共有した。
また,不安症・自閉スペクトラム症ともに家系内集積性の高い精神疾患であることを踏まえ,精神科遺伝学を臨床場面に還元する具体例として,精神疾患の家族歴や発症リスクを話し合った臨床経験を日本児童青年精神医学会機関誌に投稿し,受理された。さらには,新型コロナウイルス感染症のパンデミックが不安症に及ぼす影響およびパンデミック収束を見据えて不安・抑うつ症状に注目することの重要性につき総説執筆を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
被験者の新型コロナウイルス感染症によるリスクを最小にするという視点において,やむを得ず申請時とは若干異なる研究手法を採用することとなった。自覚的な神経発達症特性と不安・抑うつ症状を関連づける一定の知見を通じて不安・抑うつと神経発達症の病態解明にわずかながらも近づけたと考え,おおむね順調な進捗と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も新型コロナウイルス感染症に関する懸念が継続していることから,被験者と対面する必要のない手法を用いて本研究課題の学術的問いの解明を目指す。具体的には,既存の大規模データの解析や,不安・抑うつ症状を主訴とする患者の治療脱落要因を探索を計画している。これらの結果を昨年までの成果や既報とすり合わせることにより,今後の課題や方向性を明らかにする。また,最終年度であることを踏まえ,研究成果を他の精神科医と共有して議論するべく,日本語専門雑誌への総説執筆や学会での発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
従来の研究遂行においては,最新の手法や情報収集,共同研究の相談を進めるために国内外への学会参加が欠かせなかった。しかしながら新型コロナウイルス感染症のパンデミックに伴い,昨年度の情報収集は主にオンラインで補わざるを得ず,旅費を要する出張はほぼ行えなかった。今年度の流行状況を踏まえると,ひきつづきオンラインでの情報収集が予想される上に,対面調査の実施は困難と見込まれる。そこで,既存の大規模データを解析することにより不安症を起点とした自閉スペクトラム症の病態解明を目指したい。そのためのワークステーション購入を計画している。
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