研究課題/領域番号 |
20K16644
|
研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
坪本 真 金沢大学, 附属病院, 助教 (40835906)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | SATB2 / FEZF2 / TBR1 / FOXP2 |
研究実績の概要 |
本年度は当初の計画に沿って、ヒト大脳皮質中側頭回の各層より切り出された単一ニューロンのRNA sequencingによって作成された遺伝子発現データベース(Allen Brain Atlasにより公開)を用いてSATB2、FEZF2、TBR1、FOXP2を発現するニューロンの特性(興奮性または抑制性)と層分布を解析した。SATB2は皮質1-6層において興奮性ニューロンの60-80%に100-160 count per million read (CPM)の発現が認められた。FEZF2は主に皮質4層から6層の興奮性ニューロンの15-28%で63-82 CPMの発現が検出された。TBR1は皮質1-6層において興奮性ニューロンの38-63%に38-63 CPMの発現が検出された。FOXP2は主に3-6層の興奮性ニューロンの18-56%に113-173 CPMの発現が検出された。上記以外の層にある興奮性ニューロンや抑制性ニューロンではこれらの遺伝子にを発現しているものは5%以下と稀であることが確認された。SATB2の層分布は皮質に投射するニューロンの分布とほぼ一致しており、FEZF2およびFOXP2の層分布も皮質下の行動に投射するニューロンの分布と一致していた。一方、TBR1は視床に投射するニューロンが存在する5-6層のみならず皮質1-6層まで広く認められた。これらの遺伝子の発現を、健常対照例および統合失調症例の視覚作業記憶ネットワークを構成する領域において、real-time PCR定量するために特異プライマーを設計し、その特異性と増幅効率を検証した。現在当教室に存在する健常対照者の大脳皮質より得られたRNAサンプルを用いた。その結果、SATB2、FEZF2、TBR1、FOXP2に対する各プライマーは、蛋白質コード領域にある86bp、102bp、100bp、68bpのDNA断片を、98%、100%、97%、104%の増幅効率にて、特異的に増幅することをstandard curve法および電気泳動により確認した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究では、視覚作業記憶ネットワークを構成する大脳皮質領域におけるSATB2、FEZF2、TBR1、FOXP2の発現を20組の同性別で年齢および死後経過時間が出来る限り近い統合失調症と健常対照者のペアにおいて計測することを目的としている。そのために2020年度中にこれらの症例の前頭前野、後部頭頂部、視覚野などの灰白質よりRNAを抽出する必要がある。そこで2020年度中にこれらの症例の脳サンプルが存在する米国ピッツバーグ大学精神科に出張して、RNA抽出のための脳組織サンプルを準備する予定であったが、新型コロナウイルスの感染拡大により、当該地に渡航できない状態が続いている。
|
今後の研究の推進方策 |
コロナウイルス感染拡大が治まり、米国ピッツバーグ大学精神科に渡航できる状況になり次第現地に赴き、各症例の凍結死後脳ブロックより目的部位を切り出し、RNA抽出用のサンプルを準備して、当研究室において2020年度に設計し増幅特異性および効率を確認したSATB2、FEZF2、TBR1、FOXP2に対する特異プライマーを用いたreal-time PCRを行い、これらの遺伝子発現の定量を行い、健常対照者と統合失調症患者の間で統計学的比較を実施する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
2020年に予定してた20組の同性別で年齢および死後経過時間が出来る限り近い統合失調症と健常対照者のペアのそれぞれの症例からの複数の大脳皮質領域からのRNA抽出用のサンプル準備が、新型コロナウイルス感染拡大により米国への渡航制限により出来なかった。そこで必要な出張費やサンプルの凍結空輸費用、そしてRNAの抽出やcDNAの合成に要する費用を使用しなかった。
|