研究実績の概要 |
統合失調症患者と対照者のペア20組からの死後脳を用いた。それぞれの死後脳から、統合失調症で低下が多く報告されている視覚作業記憶の神経ネットワークを構成する背外側前頭前野(DLPFC)および一次視覚野(V1)の灰白質からRNAを抽出した。RNAの品質の指標であるRNA integrity number (RIN)の平均値 (標準偏差)は、DLPFCにおいて対照8.6 (0.2)、統合失調症8.5 (0.5)で、V1では対照8.4 (0.5)、統合失調症7.6(0.9)であり、DLPFCではグループ間に有意差は無かった(t38 = 0.81, P = 0.42)が、V1では統合失調症で有意に低かった(t38=3.60, P=0.001)。RNAの発現量はRINにより影響を受けると考えられるので、対照と比較しての統合失調症における変化の統計解析にはRINを共分散変数とする必要があることが示された。各症例の各領域から得られたRNAサンプルを用いてSATB2およびFEZF32のmRNAの発現を定量した結果、SATB2はDLPFCにおいて8.2%、V1では23%増加していることが判明した。共分散分析の結果、統合失調症における変化は、DLPFC (F1,33=6.69, P=0.014)で有意性が検出され、V1でも有意傾向(F1,33=3.08, P=0.089)が認められた。一方、FEZF2は、DLPFCにおいて7.8%、V1では71%増加していることが判明した。共分散分析の結果、統合失調症における変化は、DLPFC (F1,33=4.10, P=0.05)で有意性が検出され、V1では有意性(F1,33=0.08, P=0.79)は検出されなかった。
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