統合失調症は幻覚や妄想といった精神症状を引き起こす精神疾患である。統合失調症の病態は完全には解明されていないが、自己免疫異常との関連が一部に示されている。研究者は、これまでに、ピルビン酸脱水素酵素複合体(PDHC)の構成成分であるPyruvate Dehydrogenase E1 Subunit Alpha1(PDHA1)に対する抗体が一部の統合失調症患者の血清中に存在することを発見し、2020年に世界で初めて報告した。2020年の報告では、抗PDHA1抗体の有無を評価する方法としてウエスタンブロッティング法を用いていたため、抗体の有無のみを評価し、抗体価の確認(定量的評価)には至っていなかった。 そこで、今回、4年間の研究期間を通して、抗PDHA1抗体の有無だけでなく抗体価を明らかにするため、Enzyme-Linked Immunosorbent Assay(ELISA)の構築を行った。そして、統合失調症患者群、健常群、各群約100名以上について、抗PDHA1抗体の抗体価を、抗体アイソタイプ(IgG、IgM、IgA)毎に、評価した。また、抗体陽性者の抗体価を経時的に評価するために、縦断的に血清サンプルの取得も行った。研究期間を通じて、測定抗体価の精度を高めることに注力した。例えば、当初、IgGに対する抗体であるリウマトイド因子を考慮しておらず、リウマトイド因子が存在するケースにおいて、抗PDHA1抗体価が正確に測定できないことが考えられたため、リウマトイド因子の存在に影響されず抗PDHA1抗体価を評価できるようにELISAの改良も行った。 結果として、患者群の方が抗体価が高いケースが多い傾向が明らかとなった。しかし、これは「傾向」であり、統計学的に有意な結果は得られなかった。しかしながら、今後、抗体価が高い群においての免疫治療の有効性について評価することができれば、より高い臨床的意義を明らかにできると考えている。
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