研究実績の概要 |
認知症は、世界規模での増加傾向にあり、特に少子高齢化が進む日本においては社会的な負担が増大している。病気の初期段階から治療介入することで、疾患の進行を遅らせられる可能性があることが知られており、早期診断と適切な管理によって介護者の負担を大幅に軽減できることが期待されている。特に、神経病理学的に認知症の約20%を占めるレビー小体型認知症は、抑うつ、幻視などの精神症状や、自律神経症状による易転倒性、失神などの特有の臨床症状を呈し、これらの管理には特別な配慮を要する。しかし、臨床症状の個人差が大きいため、診断の見逃しも少なくない。近年、脳ドパミントランスポーターのシンチグラフィーなどのバイオマーカーが開発されているが、その高額なコストと利用可能な施設の限られた範囲が問題となっている。 本研究では、脳波検査を利用して、特別な設備が不要な一般的な医療施設でも利用可能な、認知症の鑑別診断及び予後予測に有効な客観的バイオマーカーを開発することを目的とした。この研究に関連して、当院脳外科と共同で、安静時脳波データを用いて、レビー小体型認知症を含む様々な認知症疾患と健常者を識別するための深層学習モデルを開発した。その成果は国際的な学術誌にも掲載され(Hata et al., 2023)、健常者とレビー小体型認知症を94%の精度で区別することが可能であること、AUCは0.99と報告した。さらに、ポータブル脳波計を使用して脳波検査をより簡易に行い、そのデータを機械学習モデルで解析することにより、精神神経疾患の発症を高精度に予測できることを示し、これも国際学術誌にて発表した(Hata et al., 2023)。これらの知見を活用し、ポータブル脳波計を使用した認知症性疾患の識別研究を進め、国際学術誌への投稿をし、現在査読を受けている。
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