研究実績の概要 |
本研究の目的は、妊娠による身体的、精神的、生物学的変化が飲酒欲求に与える影響を解 析し、新たなアルコール依存症の治療法を確立することである。そのため、まずアルコール依存症を有する女性の実態調査を行った。対象は依存症専門医療機関である医療法人北仁会幹メンタルクリニック及び医療法人北仁会いしばし病院に、2014年1月1日から2018年12月31日の間に新規受診した患者とし、年齢、性別、診断名、AUDITスコア等を後方視的に調査した。新規患者総数は3915名(男性2046名:女性1869名)である。その中でアルコール関連の診断(ICDコード:F100、F101、F102、F103、F105、F106、F107)のものは892名(22.8%)で、男性678名(52.6±13.7歳)、女性214名(47.3±13.6歳)であった。この女性214名の初診時のAUDITスコアは24.7±6.8点、HAM-Dスコアは13.5±7.0点、1日の純アルコール平均摂取量は86.5±66.1gであった。また、214名中118名が併存精神疾患を有し、59名がうつ病を併存していた。 アルコール依存症者は男性の方が多いと言われているが、生物学的に女性の方がなりやすく、発症までの期間も短いとされている。本調査においても、診断を受けた女性の平均年齢は47.3歳であり、男性よりも有意に若かった(t=-5.0,p<0.01)。また、多量飲酒が習慣化した年代を確認できた女性96名の内、20代、30代がともに28名(29.2%)と最も多く、女性のアルコール依存症者は妊娠適齢期に多量飲酒が習慣化している可能性が高いことが示唆された。ただし、女性のアルコール依存症者の中には妊娠を機に飲酒欲求の低下を示すものが見られるため、妊娠による変化と飲酒欲求低下の関連性を解析することは、新たな治療法の確立に有効であると考えられた。
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