2020年度より収集していた健常成人ならびに成人期自閉スペクトラム症(ASD)患者のデータの中から、ロールシャッハ検査(RT)時の視線活動のデータを用いて、ASDの特徴の検出を2023年度で実施した。対象は、健常成人 47名(男性 26名、女性 21名、平均年齢 27.1歳)、ASD 48名(男性 35名、女性 13名、平均年齢 27.4歳)であった。自閉スペクトラム症の診断は、DSM-5ならびにADOS-2にて実施した。視線活動データはTobii Pro Glasses 3を用いて取得し、RT実施時の視線活動をTobii Pro Labを用いて、RTの各図版にマッピングし眼球運動データを取得した。得られたデータを混合ガウスモデル(GMM)を用いて、クラスタリングした。GMMにてクラスタリングを行った各関心領域(AOI)における、①存在確率、②停留時間、③あるAOIから他のAOIへ移動する確率、④視線速度を抽出し、サポートベクターマシーンを用いて判別を行った。結果、各AOI内での視線速度を用いることで、ASDの約70%を分類できることが示された。また、GMMにより6から12クラスターに各図版をクラスタリングし、得られたAOI内の視線速度を用いて分類をした際に、図版1、3、6は、2群を分類するうえで有用である可能性が示唆された。さらに、健常対照群と比較して、ASD群は他のAOIへ視線が移行する際の視線速度が遅くなることが示された。 本研究を通じで、健常成人と成人期自閉スペクトラム症を比較的高い精度で判別できるモデルを機械学習モデルを用いて構築することができた。また、視線活動データは、両群を判別するうえで、有用な生物学的指標の1つであることが示唆された。本研究は、ASDのより適切な診断そして治療開発の一助となりうると考えられる。
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