研究課題
本研究では、「ストレス誘発性海馬BMP4シグナル経路の活性化が、精神疾患の一つである不安障害の発症メカニズムに関与するのか?」をテーマとして設定した。不安障害は罹患率の高い精神疾患の一つであり、うつ病発症の強い危険因子でもある。また、これらの精神疾患の病態メカニズムについては未解明な部分が多く、既存治療薬の有効性も十分ではない。そのため、より有効性の高い新規治療薬開発のために、病態メカニズムの解明が必要である。そこで令和2年度の研究計画では、不安障害に加え、うつ病モデル動物における海馬BMP4の変化についても検証した。結果として、(1)不安障害と海馬BMP4については、ストレス誘発性不安モデルラットの海馬では、BMP4シグナル活性の亢進、および神経数の減少が起きていることを報告し、国際論文雑誌に掲載された。(2)うつ病と海馬BMP4については、興味深いことに、不安障害とは逆に、海馬BMP4シグナル活性が低下していることを確認した。海馬神経新生については未検証である。近年、BMP4は中枢神経の増殖・分化の調節・制御に関与することが報告されている。また、中枢神経機能異常は精神疾患の発症に寄与することからも、脳内BMP4とストレス精神疾患の関連を示唆している。そのため本研究結果から、ストレス負荷による海馬BMP4シグナル経路の活性変化が、不安障害やうつ病をはじめとする精神疾患の病態メカニズムに関与する可能性が示された。
4: 遅れている
令和2年度の研究計画では、不安障害モデル動物の海馬において、神経新生/グリア新生比の変化を検証する予定であった。しかし、新型コロナウイルス禍に伴う大学の入構制限やテレワーク推奨、学生に対する講義・実習への対応対策に追われ、十分な研究活動が行えなかった。また本研究計画以外の研究についても大幅なマンパワー(研究協力者)の低下が生じたため、当初想定した以上に他の研究に対するエフォートを振り分けなおさなければならず、全体として研究の進捗が大幅に遅れてしまった。
令和2年度でコロナ禍における大学での研究業務、講義・実習への対応対策の準備は整っている。令和3年度以降も新たな対応が必要とされる場面が出てくると思うが、前年度の経験を糧に、本研究計画を推進していきたい。また、他の研究業務についても、マンパワーの低下を考慮した計画の改定を行っている。
令和2年度に物品を購入した際、端数が生じたため。
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Behavioural brain research
巻: 392 ページ: 112711
10.1016/j.bbr.2020.112711