研究課題
本研究では、「ストレス誘発性海馬BMP4シグナル経路の活性化が、精神疾患の一つである不安障害の発症メカニズムに関与するのか?」をテーマとして設定した。不安障害の病態形成メカニズムには不明な点が多く、その治療薬の効果も十分ではない。不安障害には病的な不安症状に加えて、認知機能障害や脳内の炎症反応もかかわることが示されている。そこで、令和3年度の研究計画では、ストレス負荷により海馬BMP4シグナル経路が活性化している不安モデルラットを用いて、感情の制御に重要な脳内の海馬における炎症反応、ならびに認知機能障害が惹起されているかを検証した。結果として、(1)モデルラットの海馬では炎症シグナルであるリン酸化p38-MAPKが増加していた。(2)モデルラットでは物体の位置を記憶する試験であるobject location testでの認知機能が低下していた。不安障害を含む精神疾患の発症メカニズムには、脳内の神経新生の減少や炎症反応の増加、そして、これらの変化に伴う認知機能障害が注目されている。しかし、神経新生の減少と炎症反応のトリガーとなる物質に関しては分かっていない。私たちは昨年度の研究において、モデルラットの海馬における神経新生が減少することを明らかにしている。そのため、本研究結果は、BMP4シグナル経路の活性化が不安障害の病態特徴である海馬の神経心s寧の減少と炎症反応の増加を引き起こすことで認知機能障害をもたらす可能性を示している。
4: 遅れている
昨年度まで使用していたBMP4抗体を新しいLOTに買い替えた際に、これまで検出できていたBMP4のバンドが検出できなくなった。そのため、この理由の解明のため、購入業者への質問、他業者のBMP4抗体の変更、海馬サンプルの調製法の見直し、などの対応を余儀なくされた。これらの対応に多くの時間を費やしたため、研究の進捗が遅れることとなった。
昨年度はBMP4抗体の問題があったが、BMP4シグナルの活性化の評価をSMAD1/5/9とp38MAPKで行うことで解決可能であることを確認した。これまでの研究結果を踏まえて、今後はモデルラットを用いて神経新生の制御と炎症反応の惹起とかかわりが強いグリア細胞の変化を明らかにしていく予定である。
進捗状況で記述したとおり、BMP4抗体の問題解決のために多くの時間を費やす必要が生じた。その分が研究進捗の遅れとなり、当初本年度で実施する研究予定が来年度へ持ち越しとなった。来年度では、不安モデルラットの海馬において、グリア細胞と炎症の関連を明らかにする予定である。
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Neuroscience letters
巻: 764 ページ: 136234
10.1016/j.neulet.2021.136234.
Experimental hematology
巻: 97 ページ: 21
10.1016/j.exphem.2021.02.009.