重度のアルコール使用障害(Alcohol Use Disorder:AUD)者は、飲酒に関する強い欲求(渇望)があり、身体的、社会的または家族内問題があっても飲酒を繰り返す慢性的な精神疾患である。本研究は、脳内報酬系の神経回路を中心とした視覚刺激に対するアルコール使用障害患者の脳機能異常が、重症度によりどのように変化するかを解明するためのものである。当院内の1.5T超電導MRI装置を用い、覚醒、安静開眼の状態で座位を保持してもらい、その状態で撮像を行った。刺激としてはブロック課題を用い、視覚刺激課題として3系統の刺激動画(ソフトドリンク、擬似アルコール飲料、アルコール飲料をそれぞれ飲んでいる動画)を用い、これら3系統の刺激課題をランダムに提示しながら、その間の脳機能(具体的にはBlood Oxygen Level Dependent:BOLD信号)を測定した。現在までに重症AUD者17人、中等症AUD者3人、健常者12人を対象に撮像を行なった。なお、重症AUD者は、肥前精神医療センターの入院アルコール治療プログラムに参加していた。データの集積後は、被験者の脳機能の変化を明確にするため、MATLAB およびSPM12など専門の解析ソフトを用いた解析を進めた。 中等症AUD者は被検者数が少ないため、まずは重症AUD者と健常者の2群で脳の反応(BOLD信号)を比較した。 ①扁桃体、②尾状核、③楔前部をそれぞれ関心領域とし集団解析を行うと、AUD患者のBOLD反応は健常者と比較して、 ①ノンアルコールビールの動画に対して有意に上昇(p=0.034)②オレンジジュースの動画に対して有意に低下(p=0.022)③ノンアルコールビールの動画に対して有意に上昇(p=0.027)などの結果が得られた。以上から、扁桃体、尾状核、楔前部のあるネットワークで何らかの障害があることが考えられた。
|