研究課題/領域番号 |
20K16711
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
上野 裕 関西医科大学, 医学部, 研究医員 (90716458)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インターベンショナルラジオロジー(IVR) / ナノバブル / キャビテーション / ソノポレーション |
研究実績の概要 |
今年度も学会参加を行い、情報取集を行った。第80回日本医学放射線学会総会、第57回日本医学放射線学会はともにオンライン形式での参加であったが、多数の演題や講演があり、放射線医学にかかわる最新の知見を得ることができた。後半で主に今後の実験に関する検討を行った。 試験管内でのソノポレーションの実験では動物実験に使用する水溶性溶剤の高濃度ナノバブル経皮吸収用液体の候補となるエコーゼリー、及びシスプラチン溶解生理食塩水の混和液を作成、これに専用のナノバブル発生装置によるナノバブルの作成と、エコー照射によるバブル消失の確認を行っている。今年度に得た資料とデータからすると、エコーゼリーとシスプラチン溶解生理食塩水の混合比を変化させることで、バブルの肉眼的密度とその超音波照射後のバブル消失のスピードが変化させることができ、エコーゼリーの混合比が低濃度のほうがバブルの肉眼的密度は低いものの、バブル圧壊スピードが速いことが明らかとなっている。 これを踏まえて、実際の動物を用いた経皮吸収実験では、バブル圧壊スピードの速いエコーゼリーの混合比が低濃度の液体のほうがキャビテーションがより強く生じると推察された。ただ、現段階では多量のバブル含有液体をラットの小さな皮膚環境に保持することは難しいことが分かっている。この点から、動物実験に移行する前段階のバブル実験を繰り返す必要があり、この前段階の追加実験の方法を策定し、実施を検討している。超音波の照射はガラス瓶経由でも問題なく行えるため、バブルを保持する方法として、底のない円筒状のガラス瓶を用意し、底の部分は直接皮膚に、反対の開口部から絶え間なくナノバブルを含有させた混合液を投与し続ける方法を考案した。しかし、循環構造でなければ直接皮膚に接する部位のバブル濃度が保てない問題もあり、これを実際の実験で確かめる用意ができている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定では、高濃度ナノバブル液体の組成(ナノバブル含有量等)の計測とキャビテーションテストを行い、開発した高濃度ナノバブル液体にシスプラチンを標識するテストを行う予定であった。 研究実績の概要でも記載したように、現段階では多量のバブル含有液体をラットの小さな皮膚環境に保持することは難しいことが分かっている。また、どのような混合比でのナノバブル液体を実験に使用するかの検討も行っている段階であり、その使用環境に関しても検討の段階を出ていない。このため、当初予定の組成計測は行えていない。ただ、キャビテーションテストやシスプラチンの標識に関しては、2020年度にすでに終えており、これを実際の使用環境で再現することが課題となる。これに関しても、研究実績で記載したように、すでに新たな高濃度ナノバブルの実験環境に関する検討は行っており、実験を行い、確かめる用意ができている。 また、別の解決策として、ラットの小さな皮膚環境ではなく、豚の広い皮膚環境を用いることを検討している。広い皮膚環境では高濃度ナノバブル液体を循環させる必要がなく、実験を行える。宮崎県の動物実験施設での実験となるが、生体豚を用いて皮膚に広範囲にシスプラチンを含有させた高濃度ナノバブル液体を塗布し、直接超音波照射することにより、広い範囲でソノポレーションおよびキャビテーションを生じさせることで、血中シスプラチン濃度に変化が生じるかを測定する実験を計画した。これにより、大量ナノバブルで増強したキャビテーションによる経皮吸収促進の評価は可能であると考えた。ただし、昨今の新型コロナウイルスに対する出張抑制があり、また実験施設の利用制限もあり、休止している。状況の改善により実験に移すことは可能である。
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今後の研究の推進方策 |
2022年は現在検討しているいくつかの方法でナノバブル含有液体の使用条件を明らかにし、その使用に適した組成を明らかにする。現在考案している方法としては、超音波の照射はガラス瓶経由でも問題なく行えるため、ラットの小さな皮膚環境に多量のバブルを保持する方法として、底のない円筒状のガラス瓶を用意し、底の部分は直接皮膚に、反対の開口部から絶え間なくナノバブルを含有させた混合液を投与し続ける方法、あるいは円筒状の循環構造を作成し、その一部を直接皮膚に開口させてナノバブル含有液体の循環環境を構築する方法を検討している。どのモデルがキャビテーション実験に適しているかを確認し、そのうえで実験計画書のとおり、ラットを用いたナノバブルのキャビテーション効果を確認する実験にすすむ予定としている。 また、進捗状況でも記載したように、広い皮膚環境では高濃度ナノバブル液体を循環させる必要がなく、実験を行えるため、ラットの小さな皮膚環境ではなく豚の広い皮膚環境を用いる方法により、別の解決策も準備している。生体豚の皮膚に広範囲にシスプラチンを含有させた高濃度ナノバブル液体を塗布し、直接超音波照射を行うことにより、広い範囲でソノポレーションおよびキャビテーションを生じさせ、血中シスプラチン濃度の変化を測定することで、生体の皮膚でキャビテーションが生じたかを確かめる実験を考案した。この実験で当初の実験計画と同等の生体でのキャビテーションによる経皮吸収促進を明らかにすることができる。宮崎県の動物実験施設での実験になるが、昨今の新型コロナウイルスに対する出張抑制、実験施設の利用制限により休止している。これも状況の改善により実験に移すことは可能である。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)当初計画では高濃度ナノバブル液体の組成(ナノバブル含有量等)の計測とキャビテーションテスト、開発した高濃度ナノバブル液体にシスプラチンを標識するテストを行う予定であった。高濃度ナノバブル液体の組成が決定していない段階であり、この測定機器の購入費用や、実験に使用するシスプラチンなど物品および、薬品の未使用額が生じたため。また、旅費に関しては昨今の新型コロナウイルスに伴う出張抑制のため、使用がなされていない。 (使用計画)2022年度はナノバブル含有液体の使用条件を明らかにし、その使用に適した組成を明らかにする。底のない円筒状のガラス瓶、あるいは円筒状の循環構造を作成し、ナノバブル含有液体の循環環境を構築する方法を検討している。この実験のための器材や物品、薬品の購入費用が必要となる。さらに前年度行えなかった高濃度ナノバブル液体の組成の計測のため、測定機器の購入費用も計上が必要となる。また、ラットではなく豚を用いた生体実験を行う場合でも、実験のための器材や物品、薬品の購入費用と実験施設への旅費が必要となる。さらに新たな実験結果を精査、検討し、学術研究会や学術誌などで研究成果の公表を計画しており、この参加費や英文校正の費用が必要となる。 上記により差額分の助成金の使用を余儀なくされると予測される。
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