これまでの我々のがん治療後の組織修復の研究の過程で、抗がん剤やRITにより、発現が誘導される細胞膜表面分子があることを見出した。その中の組織再生因子の一つTenascin Cは組織修復中しか発現せず、がんの増殖や転移にも重要な役割を持つことが明らかになった。膵がん由来で間質の多い腫瘍を形成する難治性細胞株BxPC-3やその無処置の移植腫瘍ではTenascin Cの発現はないこと、我々が開発したTenascin Cの抗体が細胞に結合しないことを確認した。BxPC-3をオスのヌードマウスの皮下に移植し、膵がんのモデル動物を作成した。腫瘍にX線を30Gy照射し1、3、7日後の腫瘍と未治療の腫瘍をサンプリングしTenascin Cの発現誘導を調べた。Tenascin Cの発現は照射7日後の腫瘍の間質で最も高いことを確認した。また未照射群と照射7日後群をイメージング用核種であるIn-111で標識したコントロール抗体と3種類の抗Tenascin C抗体を投与して体内動態実験とSPECT/CT撮像実験を行った。3種類の抗体のひとつEGF-likeリピートドメインを認識する抗体では、照射7日後群の腫瘍への集積がコントロールに比べて2倍も高いことを見出した。さらに、同じEGF-likeリピートドメインを認識する抗体を新たに開発し同様にSPECT/CT撮像したところ、さらに高い腫瘍集積を認めた。この新しい抗Tenascin C抗体は、がん組織の治療損傷修復部位に薬剤を大量に運搬できる。我々が開発した抗体をα線あるいはβ線放出放射線同位元素で標識して、抗がん剤治療による損傷を修復している部位に追加治療(Adjuvant Radioimmunotherapy)した時の治療効果を検討する予定である。
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