研究課題/領域番号 |
20K16717
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
一瀬 浩司 弘前大学, 医学部附属病院, 医員 (50832903)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | FRP-170-PET / TH-302 / 腫瘍内低酸素 / 放射線治療 |
研究実績の概要 |
令和2年度は18F-FRP170-PETの撮像条件の最適化および、新規低酸素毒TH-302の低酸素選択的な細胞毒性の評価を実施した。 はじめに青森県量子科学センターの小動物PET/MRI装置における18F核種のクロスキャリブレーションファクターを算出することによりSUV値の定量評価を可能にした。次にヒト舌癌細胞株SASの腫瘍片を移植したヌードマウスに5 MBqの18F-FRP170を投与し、60分および120分後におけるMRIT1強調横断像とPET撮像を行った。腫瘍のSUV maxについては撮像時間での値に有意差を認めなかったが、心腔内血液中のSUV meanは60分での値と比較して120分で有意に低下する傾向を認めた。18F-FRP170-PETにおける集積の評価は、背景の洗いだしが良好な投与後120分で行うのが妥当であることが示唆された。 続いてSASにおけるTH-302の細胞毒性を評価し、従来の低酸素毒tirapazamineと比較した。21%酸素および1%酸素の条件下で、各薬剤を段階的な濃度で24時間反応させた後、トリパンブルーアッセイを用いて細胞生残率を評価した。いずれの薬剤も21%酸素条件と比較して1%酸素条件で細胞生残率が低下したが、毒性の低酸素選択性はTH-302でより顕著であった。 令和3年度は摘出腫瘍の組織学的な検討を追加し、18F-FRP170-PETが腫瘍組織中の低酸素分画の評価に有用であるかを追求する。さらに腫瘍内の18F-FRP170の集積比率によって、TH-302併用による放射線治療への増感効果に差が生じるかを評価することで、TH-302併用放射線治療の適応判断における18F-FRP170-PETの有用性を検討する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の主な研究課題は、1. 腫瘍片移植ヌードマウスの構築、2. 18F-FRP170-PETの低酸素分画描出の2項目であった。 本研究ではヒト由来腫瘍細胞株を用いた腫瘍移植マウスモデルの構築が不可欠であった。移植に用いる細胞懸濁液中の細胞数やマトリゲルの混合率の最適化を目指した結果、複数の細胞株において良好な腫瘍の定着と増大が確認された。移植手技は間便かつ皮膚切開を加えない可及的侵襲度の低い方法で最適化され、腫瘍移植マウスモデルを安定して供給することが可能となった。 次に青森県量子科学センターの小動物PET/MRI装置における18F核種のクロスキャリブレーションファクターを算出することにより、18F-FRP170-PETの集積をSUV値として定量評価することが可能となった。実際にこの補正パラメータを用いて腫瘍移植マウスにおける腫瘍内および心腔内血液中のSUV値を比較することで、PET撮像タイミングに関する検討を実施することができた。ここで得られた結果は今後18F-FRP170-PETを用いた低酸素イメージングの検討を進める上で極めて有用なデータであると言える。また、実験に使用した18F-FRP溶液に含まれるエタノール濃度は、マウスに対して明確な毒性を及ぼすものではなく、今後も安全に撮像を実施できると考えられた。 現在、PET/MRI装置へのマウス固定やイソフルランによる持続麻酔管理等の手技は確立したものとなってきており、異なる酸素環境やTH-302投与の有無といった条件間での比較を、複数の細胞株で検討可能な状況に至ったと言える。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は1. 腫瘍の組織学的な低酸素分画の評価、2. TH-302併用放射線治療の適応判断における18F-FRP170-PETの有用性検討を主な研究課題とする。 PET撮像後のマウスに低酸素プローブのpimonidazoleを腹腔内投与し、1時間後に摘出した腫瘍組織の免疫染色を行うことで、組織内の低酸素分画の局在とPET集積の分布を比較する。異なる酸素条件下で検討を行い、PET集積と組織学的低酸素分画の存在・局在の相関性を評価することで、18F-FRP170-PETが腫瘍組織中の低酸素分画の評価に有用であるかを検討する。 次に、18F-FRP170の集積比率によってTH-302の放射線治療への増感効果に差が生じ得るかを評価する。具体的には18F-FRP170-PETの集積によって分類した低酸素分画高比率群と低比率群の2グループ間において、TH-302併用の有無による腫瘍抑制の上乗せ効果を比較することで、TH-302併用放射線治療の抗腫瘍効果が腫瘍内低酸素分画の比率に依存するかを検討する。さらに摘出腫瘍組織の切片を作製し、DNA損傷マーカーを用いた免疫染色を行うことで、TH-302併用放射線治療の抗腫瘍効果の背景に、X線照射単独では制御困難な低酸素細胞のDNA損傷に基づく殺細胞効果が存在することを示す。 上記の前臨床的検討において有望な結果が得られるならば、18F-FRP170-PETを用いたTH-302併用放射線治療の安全性評価のための第I相試験、有効性および安全性の評価ための第II相試験を実現するべく、臨床試験実施プロトコルの最適化と認定委員会での審査・承認にむけた活動を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度においては、第一に新型コロナウイルス感染症蔓延の影響を受け、当初予定していた青森量子科学センターでの実験日数を確保することができなかったことが挙げられる。同様の理由で、各学会参加に要する旅費として請求した予算についても余剰が発生した。 令和3年度については、感染対策を考慮しつつ可能な限り青森量子科学センターでの実験予定を確保し、これと並行して当大学研究室にて検討可能な内容について追及を進める。研究成果についてはWeb開催形式の各学会へ積極的に参加し、随時報告を行う。
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