研究課題
当該年度までに1編の論文を報告した(Radiology. 2020;297(3):584-594.)。これは肝特異性造影剤であるgadoxetic acidを用いた造影MRI(EOB-MRI)において、大腸癌肝転移周囲の肝実質の所見と切除後の長期予後との関連を評価したものである。具体的には肝転移末梢に、肝実質の早期濃染、gadoxetic acid取り込み低下、胆管拡張のいずれかが見られる場合に全生存期間が短縮し、また胆管拡張例では無再発生存期間が短いという結果を示した。また胆管拡張例では病理学的にも門脈侵襲および胆管侵襲を伴う率が高いことを示した。大腸癌肝転移においては、サイズや個数を除いた画像評価による予後予測の報告はほとんどなく、術前に患者の予後を予測できれば臨床的に意義が大きい。これは個々の患者に応じた治療法の選択にもつながると考えられる。Radiology誌は放射線科領域のtop journalであり、この臨床的意義が高く評価されたものと考えている。また共著者として同コホートのデータを提供し、病理学的に大腸癌転移の辺縁の発育形態(histological growth pattern)が患者の生存予後および再発予後の独立した予測因子であることを確認した(Hum Pathol. 2022;123:74-83.)。今後はこれを画像で予測可能かどうか検討を続ける予定である。そのほか同じデータセットを用いて、MR画像のテクスチャ解析によって患者の予後を予測するという研究を行ったが、強い意義のある結果を得られず未報告の状態である。
2: おおむね順調に進展している
大腸癌肝転移においてCT・MR画像所見から組織学的性状および長期予後を予測するという目的に対して、肝特異性造影剤であるgadoxetic acidを用いたMR画像所見から一部病理所見と長期予後の予測が可能であるという論文を報告できた(Radiology. 2020;297(3):584-594.)。放射線科領域のtop journalに報告することができ、研究目的の根幹部分は達成できたと考えている。
これまでにgadoxetic acidを用いた造影MR画像所見から大腸癌肝転移の術後再発予後および生存予後を予測しうることを示した。今後はこの研究をさらに深める方針として、①早期再発が予測される患者では実際にどこに腫瘍が再発してくるのか、②長期予後不良が予測される患者における術前化学療法の有用性、③化学療法後でも同様の評価方法が有用か、などの評価を進めていきたいと考えている。また大腸癌肝転移のhistological growth patternをgadoxetic acid造影MRIで予測できないか模索中である。
2020および21年度はCOVID-19の蔓延により旅費および学会参加費用が大幅に削減された。2022年度は研究発表および最新の知見についての情報収集のために積極的に学会に参加する予定である。また定量的な画像解析のために、十分な計算能力を有したコンピュータ並びにモニタの購入予定である。他には現在進行中の研究の英文構成費用並びに執筆のための文献調達費用としての支出を考えている。さらに大腸癌肝転移の画像所見と病理所見の詳細な評価を行うためには、追加の病理染色が必要であり、データベースの拡張に伴って適宜染色を追加する予定である。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (1件) (うち国際学会 1件)
Human Pathology
巻: 123 ページ: 74~83
10.1016/j.humpath.2022.02.015.