本申請課題では、不均一な線量を照射された細胞モデルを作成し、放射線治療における放射線誘発コホート効果による細胞間相互作用の影響を評価する。コホート効果とは、放射線を照射された隣接細胞どうしの細胞間相互作用により、細胞生存率などに影響を及ぼす現象である。高精度放射線治療では、腫瘍に線量を限局させ空間的に非常に急激な線量変化が起こるが、放射線生物学的側面からそのような影響の検討はされていない。 令和5年度は、昨年度に引き続き不均一照射に対する物理的な接触を阻害しない共培養での細胞生存率の評価を、ヒト口腔扁平上皮癌細胞SASからヒト肺癌細胞A549に変えて行った。またコホート効果の作用機序の解明を目的とし、NOスカベンジャーの阻害剤であるCarboxy-PTIOを用いてSAS及びA549細胞で同様の実験を行った。 トレーサーとしてCellTrace Far Red (Invitrogen) を用いて細胞を標識し解析対象の4 Gyを照射した標識細胞と、非標識の細胞を混ぜて培養し不均一な線量を照射された細胞とした。非標識の細胞は、4 Gyを基準とし、その0、20、80、100%を照射した。既定期間培養後、フローサイトメーターで測定し、 CellTrace Far Redの蛍光強度を用いた増殖モデリング解析により、増殖率の指標であるExpansion index (EI)を算出した。A549ではSASと比べはっきりとした非標識細胞の線量の影響は確認できなかった。しかしながら、照射から6日のEIのデータでは非標識細胞に0%(0Gy)照射した場合に比べ、非標識細胞に100%(4 Gy)照射した条件における4 Gy照射された標識細胞のEIの有意な増加が観察された。Carboxy-PTIOを用いて実験では、投与の有無で、若干のEIの増加が観察されたが明瞭な違いは観察されなかった。
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