研究課題/領域番号 |
20K16802
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
佐藤 香菜子 順天堂大学, 医学部, 助教 (80755520)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 脊髄小脳変性症 / 小脳 / 脳内ネットワーク / 脳MRI / 拡散テンソル画像 / free water elimination |
研究実績の概要 |
本研究は、脊髄小脳変性症の病態解明と客観的評価の確立を行うことを目的としている。当該研究者はこれまでの研究で、脊髄小脳変性症の1つであるSCA6の患者を対象とし、小脳を発生学的由来に関連した部位ごとに区分して、区分ごとの容積変化や拡散テンソル画像(diffusion tensor imaging: DTI)の拡散示標fractional anisotropy (FA)やapparent diffusion coefficient (ADC)の変化が症状と相関することを明らかにした。また、マウス脳を透明化し神経線維を3次元的に観察できるようにした標本と最新の拡散MRIの手法であるneurite orientation dispersion and density imaging (NODDI)の比較研究を行い、神経線維の方向性について病理所見NODDIの示標の対応があることを確認した。 これらの結果から、小脳の発生学的区分と最新の拡散MRIの意義が示されたため、本研究ではこれを発展させ、脊髄小脳変性症についてさらに質の高い結果を得るための研究をしていく。先行研究で考慮すべき点としては、小脳の脳幹を介した大脳との連結が患者の症状に影響している可能性、最新の拡散MRIをヒトの小脳にも適切に使用していく必要性が挙げられる。特に小脳では脳脊髄腔の水のpartial volume effectの影響を受けやすいことが問題となっており、free water eliminationを用いた解析が望まれる。これらの点をふまえ、本研究では、脊髄小脳変性症の患者の小脳について、大脳との連結も考慮した区分ごとの変化を調べ、最新の拡散MRIとfree water eliminationを使用して研究を進める予定である。 今年度は、これらについての最適な手法の検討をふまえ、最新の撮像法や、小脳と大脳などとの連結を考慮した鑑別診断の考察をまとめ、学会発表と学術雑誌発表を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小脳は上・中・下小脳脚を介して脳幹に連続し、さらに大脳に連結している。近年、脳領域同士の接続が脳機能の解明や様々な変性疾患において重要視されており、脊髄小脳変性症では特に大脳と小脳の関係が注目されている。小脳脚は小脳の区分ごとに大脳と小脳を連結する構造であることから、これらをDTIによりトラクトとして描出し、拡散示標の変化を調べることとした。また水の非正規分布を前提とした拡散MRIは種々の手法が開発されているが、効率的かつ生体内の環境をよく反映する手法として拡散尖度画像(diffusion kurtosis imaging: DKI)やNODDIがある。 昨年度はDKIを使用し、従来の拡散MRIと比較するため下記の解析を行った。試験的に年齢と性別が一致した3例のSCA6患者と5例の健常者を対象とし、DTIとDKIを用いて従来のMRIの拡散示標FA, ADCと、DKIの拡散示標mean kurtosis(MK)の比較を行った。小脳脚については、DTIのtractographyにより上・中・下のすべてのトラクトを描出して各トラクト上の拡散示標を測定するtract-specific analysisを行った。また小脳を発生学的由来に応じて虫部と内側・外側小脳半球の区分に分割し、各区分の白質にROIを設定して拡散示標を測定するROI analysisを行った。tract-specific analysis では、SCA6患者において中・下小脳脚で有意なADCの上昇とMKの低下がみられた。FAや上小脳脚には有意な変化はみられなかった。ROI analysisでは、SCA6患者において、FAとMKの有意な低下が内側小脳半球白質にのみみられた。 今年度は、これらについての最適な手法の検討をふまえ、最新の撮像法や、小脳と大脳などとの連結を考慮した鑑別診断の考察をまとめ、学会発表と学術雑誌発表を行った。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度の結果より、小脳と大脳を連結する小脳脚でtract-specific analysisを使用した解析が有用であることが示された。また従来の拡散MRIの示標よりも水の非正規分布モデルに基づく最新の拡散MRIの方が変性による変化をより鋭敏に検出できることがわかった。小脳の区分については、いずれも内側小脳半球にのみ有意差が検出され、内側小脳半球を含めて区分する必要があると考えられた。これらから、発生学的由来に基づく区分は、tractographyにより描出した各小脳脚を含めること、小脳についてはより細かい区分を行う必要性が示唆された。 今年度は、これらについての最適な手法の検討をふまえ、最新の撮像法や、小脳と大脳などとの連結を考慮した鑑別診断の考察をまとめ、学会発表と学術雑誌発表を行った。 今後は、DKIやNODDIなど非正規分布モデルに基づく最新の拡散MRIを使用し、free water eliminationを併用した研究を行っていく。今後は、SCA6以外の病型も含めたより多くの脊髄小脳変性症の症例について、これらの手法を適用し解析を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、昨年度の結果をふまえ、学会発表と学術雑誌発表を行ったが、引き続きコロナの蔓延により、海外学会への出張は困難であった。そのため、今年度は使用額が少なくなり、次年度に使用する予定となった。
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