本研究は現在の重粒子線治療に用いられている金属製の加工タイプのフィルターに置き換えて使用できる新たなフィルターの開発を目的としている。重要なポイントとしては価格をいかに抑えられるかであり、金属加工により制作されたものは非常に高価なため、コスト面はもちろん、制作に必要な時間などが問題となることがある。もし既製品を用いることができれば加工の必要もほとんどなく、運用面において予備品を持っておくことはもちろん、非常時にもすぐに手配できるなどのメリットもあると考えられる。また新たなフィルターは次世代の重粒子線治療として進められている量子メスプロジェクトの治療法であるマルチイオン照射での利用も視野に入れている。マルチイオン照射では従来の炭素イオンだけでなく、ヘリウムや酸素、ネオンといった他のイオンも同じビームラインで切り替えながら照射するため、それぞれのイオンに対してもフィルターとして使用できるかが重要なポイントとなる。 最初は不均質材を用いた研究を進め、各イオンに対するフィルターとしての性能の評価等を行った。この不均質材は低コストではあるが入手に若干の時間を要する必要があった。とはいえ従来のフィルターに比べ非常に短期・安価であったこともあり、この不均質材によるフィルターの採用を考えていた。そのような状況の中、さらに簡易的なフィルターとして金属網を重ね合わせることによるフィルターでも良い結果が得られることが判明した。そのためこちらのフィルターによるデータ収集を進め、運用に向けた研究に取り組んだ。
|