放射線治療はがんの三大治療として知られており、本邦では約30%、その他の先進国では約50%のがん患者がなんらかの放射線治療を受けている。放射線治療は局所治療として知られているが、稀に抗腫瘍免疫を強力に賦活化させてアブスコパル効果を誘発することがある。 一方、シリカ含有材料などの多孔微細材料が、がん治療領域で注目されている。無機材料はこれまで整形外科領域で用いられることが多かった。しかし、近年になって、そのアジュバント機能やドラッグデリバリーの担体としてがん治療に効果を発揮する可能性が、多くの論文や特許で示されている。本研究では、市販の多孔シリカ、あるいは他の自作材料が抗腫瘍効果を示す可能性に着目し、研究を進めてきた。まず、担癌モデルマウスを用いた動物実験では、多孔シリカとX線の併用は、X線単独より腫瘍増殖を抑制することを確認したが、バラツキが大きく、有意な差は得られなかった。また、マウスの脾臓のサイトカイン量を解析したところ、特に腫瘍の増殖遅延が著しくみられたマウスでは、抗腫瘍免疫にかかわるようなサイトカイン(INF-γ)の量が増加してた。シリカ投与直後の血漿中サイトカイン量を測定してみると炎症系サイトカインであるIL-6の量が増加していた。IL-6は腫瘍の増殖促進方向に働くことが知られており、我々が用いたシリカでは、腫瘍免疫のアクセルとブレーキの両方に作用し、そのバランスの制御が難しい可能性が得られた。一方、細胞実験において、シリカにわずかに放射線増感作用があることを見出した。これをきっかけに放射線増感材料を研究協力者らと複数開発し、放射線増感作用と免疫賦活化作用の検討を行った。
|