研究課題/領域番号 |
20K16812
|
研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
氷室 秀知 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), がんワクチン・免疫センター, 医師 (90772567)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | アブスコパル効果 / 腸内細菌叢 / 放射線治療 / 放射線療法 / 転移抑制 / 腫瘍内細菌 |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、アブスコパル効果についてマウスモデルを用いて検討を行った。マウス(C57BL/6J)の、左右の大腿部皮下(計2箇所)に腫瘍株(LLC,B16F10等)を移植し、鉛ブロックを用いて、片方の腫瘍のみに放射線照射を行い、腫瘍(照射部・非照射部)への影響を評価した。昨年度、樹立した薬剤を用いた腸内細菌叢改変マウスモデルを用いて、コントロールマウスとの比較を施行した。非照射部の体積は、個体差が大きいこともあり、コントロール群と腸内細菌改変群において明らかな差は認められず、腸内細菌改変によるアブスコパル効果の増感に関しては、有意差を得られなかった。しかし、放射線照射部の腫瘍体積に関しては、コントロール群と比較し、腸内細菌叢改変群において小さい傾向であった。腸内細菌改変による放射線治療の増感効果が推測された。take down時に、血液・脾臓・腫瘍・糞便・回盲部のサンプリングを行った。脾臓および末梢血からリンパ球を精製した。腫瘍は、一部をホルマリン固定し、組織の評価を行い、また、一部は酵素を用いて処理を行い、腫瘍浸潤リンパ球の精製を行った。精製したリンパ球は、各種抗体を用いて、蛍光免疫染色を行い、フローサイトメトリーにて検討を施行した。組織に関しては、各種抗体を用いて免疫組織染色を施行した。コントロール群と比較し、腸内細菌改変群において、照射部腫瘍へのCD8陽性T細胞の浸潤が増加する可能性を得ている。 また、免疫チェックポイント阻害剤(CTLA-4抗体)を、上記モデルに組み合わせた検討を行い、至適なモデル構築をはかっている。 また、臨床検体に関しては、昨年度と同様に放射線治療施行患者の糞便および末梢血のサンプリングを継続した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
マウスモデルの構築にあたり、至適な免疫チェックポイント阻害剤の併用方法や、放射線線量などの検討に時間を有したことや、社会情勢もあり、充分な実験検討を行う時間が確保できなかったため。
|
今後の研究の推進方策 |
免疫チェックポイント阻害剤の併用について、別の薬剤(PD-1抗体)の使用や、投与時期、回数などの検討をすすめ、モデル確立を行う。 これまでに、腸内細菌叢改変による放射線治療の増感効果を示唆する所見を得ており、そのメカニズムに関して検討をすすめる。摘出した腫瘍組織よりRNAを精製し、RNA-seqによる網羅的な解析を行う。関連する遺伝子やパスウェイの評価を行う。また、これまでの結果より、増感効果がT細胞によりもたらされている可能性を得ており、抗体薬によるCD3除去を行うことで、反証実験を施行する。また、メカニズムのひとつとして、T細胞のレパトアの変化が影響する可能性は推測され、腫瘍浸潤リンパ球のTCRレパトア解析によりその多様性の確認を行う。 腸内細菌叢が免疫に影響するメカニズムの検討として、糞便または回盲部を用いて、メタゲノムショットガン解析を施行し、増感効果に寄与している菌種の変化や菌種の機能について、検討を行う。また、その結果も踏まえて、必要となる便中代謝産物の解析も検討する。それらの検討において同定された物質が投与可能な場合は、メカニズムの反証実験として、モデルマウスを用いて、実際にそれらの物質を投与することにより、アブスコパル効果増強に影響が起こり得るかを確認する。 また、放射線治療患者の臨床経過と、腸内細菌叢と関係性について評価を行う。マウスにより得られた腸内細菌の変化と併せて、総合的に検討する。 その他、腫瘍内細菌に関しても、アブスコパル効果増強に影響を及ぼしている可能性は推測されるため検証を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
モデルマウスの構築の条件検討に時間を要し、メカニズム解析の実験に至るまでに時間を要したことや、社会情勢に伴い、充分な実験の遂行ができなかったことにより、検討にさらなる時間を要するため。RNA-seqや腸内細菌叢のショットガンメタゲノム解析などの外注検査費用や、免疫学的assayに必要な抗体、消耗品としてプラスチック製品等の購入を検討している。
|