研究課題/領域番号 |
20K16816
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研究機関 | 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所) |
研究代表者 |
小松 秀一郎 地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立がんセンター(臨床研究所), その他部局等, 医師 (10812612)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | がん放射線治療 / 放射線感受性 / がん / Precision medicine / データベース |
研究実績の概要 |
現在、様々な癌腫において遺伝子変異、mRNA発現などのオミクス情報データベースの構築と無料公開が進み、がん固有の遺伝子情報に基づいた治療の個別化戦略であるPrecision Medicineが強力に推進されている。しかし、放射線治療分野ではPrecision Medicineの普及は捗々しくない。主たる原因は、がん細胞の放射線感受性の大規模公共データベースの不在にあると考えられる。すなわち、がん細胞の放射線感受性を予測する遺伝子変異プロファイルを解析する際に、少数の細胞株の放射線感受性を報告した既報は多数あるが、それらの取得済み放射線感受性情報の統合的利用を可能とする方法論の構築が全く進んでいない。化学療法の分野ではCCLE(Cancer Cell Line Encyclopedia)やTCGA(The Cancer Genome Atlas)などの大規模公共データベースがPrecision Medicineを強力に推進しているが、がん細胞の放射線感受性に関する大規模公共データベースは存在しない。近年、申請者らは、既発表論文中のがん細胞株の放射線感受性データをメタ解析的に取り扱うことの科学的堅牢性を示し(論文発表済)、さらに深層学習を活用して既発表論文中のがん細胞株の放射線感受性データを自動取得する解析パイプラインを開発した。本研究は申請者らが開発した深層学習解析パイプラインを使用し、世界初のがん細胞株の放射線感受性に関する大規模データベースを樹立し、科学研究者に広く公開することを目的としている。同データベースはCCLEやTCGAなどのオミクス・データベースとの相乗効果によって放射線治療の生物学的な個別最適化指標の確立に大きく貢献し、放射線治療のPrecision Medicine化を強力に推進すると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究申請時は次のステップを想定していた。①申請者らが開発した深層学習解析パイプラインを使用し、全既報文献から放射線感受性情報を網羅的に抽出する。②放射線生物学専門研究家(一部外部委託)が候補論文内の実験条件の科学的堅牢性・妥当性を判断する。独自開発したパイプラインが抽出したSF2の数値が正しいかをひとつひとつ検証する(manual curation)。 申請者の異動先研究機関においては、当初予定していた上記②外部の放射線生物学専門研究家へのManual curationの外部委託が所属研究機関のルールで認められなかったため、②のステップに申請者自身の稼働を大幅に割り当てざるを得ない状況となったが、①と②のステップを初年度で完遂することができた。 また初年度の研究中、論文化にあたっては同データベースの有用性を示す事例を示す必要があると新規に判断し、大規模オミクスデータとの統合解析を実施して新規放射線増感剤候補を同定した。同定した新規放射線増感剤候補のがん放射線増感効果をWetの実験系で確認した。 申請時は公開用サーバーを初年度に構築予定であったが、上記の論文化に必要な実験に申請者の稼働をあてたため、公開用サーバー構築を次年度に繰り越すことになった(多少の遅延)。 研究開始時期が新型コロナウイルス感染症によるニューノーマル移行時期と重なったため、ラボ内のデジタルトランスフォーメーションの必要が生じたため、遠隔会議システムなどのニューノーマルにおける研究活動のインフラ導入の必要が生じ、研究に若干の遅延を生じた。
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今後の研究の推進方策 |
申請書にある通り、研究最終年度は下記に取り組む予定である。 ③放射線感受性データベースの構築(ハード):もともとは初年度に実施予定であったが、所属機関の外部委託運用ルール、コロナ禍、論文化のためのWet実験追加のため遅延した。最終年度前半で公開用のサーバーを構築予定である。 ④科学研究者に使いやすいユーザインターフェイスの開発(ソフト):予定通り ⑤専門家へのデータベース試験公開と批判集約・改良:予定通り ⑥データベースの正式公開:予定通り ⑦データベースの公開と同時の論文化:予定通り
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次年度使用額が生じた理由 |
研究申請時はデータキュレーションのために放射線生物学専門研究者に外注で依頼するために人件費を計上していたが、異動先の所属機関の方針で外注(人件費)が不可能になった。そのため、繰越が生じた。
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