本研究は申請者らが開発した深層学習解析パイプラインを使用し、世界初のがん培養細胞株の放射線感受性に関する大規模データベースを樹立して公開することを目的として、下記の実施計画のもと研究を遂行した。研究は、①既報文献から、世界最大規模のがん培養細胞株に関するオミクスデータベースであるCancer Cell Line Encyclopediaに収載された培養細胞に対する放射線感受性情報の抽出、②取得された放射線感受性情報の科学的堅牢性の判断(キュレーション)、③放射線感受性データベースの構築、④科学研究者に使いやすいユーザインターフェイスの開発、⑤データベースの公開、以上の5ステップからなる研究計画をたてた。研究初年度において、①および②の工程を完遂した。②までで作成されたデータと既存のゲノム関連大規模公共データベースを用いて既存薬剤から新規放射線増感剤候補を特定した。これは本研究によって樹立したデータベースが創薬などの研究開発に有用なことを示す有力なユースケースとなった。研究最終年度において、③から⑤の全工程を完遂した。樹立したがん培養細胞株の放射線感受性に関する大規模データベースは他に類を見ないデータベースとなった。 がん放射線治療分野において、イメージングモダリティによる分子生物学的なデータは乏しく、利用可能なデータベースは殆どないのが現状である。また、データベースとは樹立することがゴールではなく、絶えずデータや使い勝手をアップデートしていくことが推奨されている。樹立・公開したがん培養細胞株の放射線感受性に関する大規模データベースの研究開発に資する価値を更に向上すべく、がん培養細胞株に対して電子顕微鏡画像による特徴量のデータを追加することとした。電子顕微鏡画像による特徴量のデータはまだ収集途中であり、適時公開したデータベースに情報をアップデートしていく予定である。
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