研究課題/領域番号 |
20K16827
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
樋田 知之 九州大学, 大学病院, 助教 (40848644)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 胸部X線動態撮影 / 横隔膜運動 / 呼吸機能 / 慢性閉塞性肺疾患 / 肺野灌流 |
研究実績の概要 |
胸部X線動態撮影は、静止画の情報に加えて対象の”動き”を観察可能とし、胸郭や呼吸筋の運動の描出、さらに呼吸や心拍出に伴う肺野の濃度変化から換気や血流の情報が一度の検査で、少ない被曝で得られる技術である。 本研究は、胸部X線動画像を用いた呼吸機能関連指標の確立を目的としている。申請者はこれまでに、胸部X線動画像を用いて横隔膜頂部の呼吸に伴う偏位を追跡・定量し、その定量値を用いて努力呼吸における横隔膜偏位量や横隔膜運動速度を算出することで、健常ボランティア群および慢性閉塞性肺疾患(Chronic Obstructive Pulmonary Disease; COPD)群における横隔膜動態を定量化し、これらと呼吸機能検査の各種結果や臨床データとの相関を明らかにし、またCOPDの進行の程度によっても差異が認められることを明らかにした。 今年度は心拍出に伴う肺野の濃度変化より得られる肺野灌流信号に着目し、その信号分布の肺病変の有無による差異の評価を目標として、まず肺疾患のない対象者を用いた肺野灌流信号分布を検討した。立位及び臥位で撮影した胸部X線動画像を用いて、肺野を右上、右中、右下、左上、左中、左下の6領域に分画し、各領域の肺野灌流信号の割合を算出し、肺野灌流信号の標準的な分布を明らかにした。胸部X線動態撮影より得られる肺野灌流の分布は肺血流シンチグラフィでの結果とはやや異なる特徴を持つことが明らかとなり、今後肺疾患における肺野灌流分布の評価の際の一つの指標となるものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
胸部X線動画像を用いた呼吸機能関連指標の確立を目的として、胸部X線動画像を用いた呼吸機能関連指標の候補としての横隔膜動態の解析をさらに進めているものの、現在の解析においては呼吸機能検査結果との相関は軽度~中等度に留まり、その他の胸部構造の動態や肺野濃度変化、あるいはこれらを総合的に評価する必要性を考えている。今年度は当施設で施行した健常ボランティアおよび胸部CTで肺疾患がないことを確認した患者の胸部X線動画像を解析し、肺野灌流信号の標準的な分布を明らかにした。肺野灌流信号の定量評価は呼吸機能関連指標の一要素となりうると考えられ、今後もその方法の確立や肺疾患患者における解析を進めていく予定である。収集済の症例の解析を順次行っているが、さらなる解析に必要な新規症例の収集についてはCOVID-19感染による制限の影響もあり、順調に進んでいるとは言えないことから、全体の進捗状況としてはやや遅れているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
・胸部X線動画像を用いた横隔膜動態解析は呼吸機能の一面を反映するものであり、横隔膜の立体構造を反映した解析や、胸部X線動画像より得られるその他の構造の動態や肺野濃度変化などの他のパラメータと組み合わせることによって、胸部X線動画像を用いた呼吸機能指標としての可能性、有用性をさらに検討していく。 ・また胸部X線動画像を用いた肺野灌流信号の定量評価は呼吸機能関連指標の一要素となりうると考えられ、その方法の確立や肺疾患患者における解析を進め、横隔膜動態など他の解析結果と合わせて呼吸機能指標としての可能性、有用性を検討していく。 ・胸部X線動画像は膨大な量の画像を処理する必要があり手作業では限られた時間で解析を完了することが難しく自動処理技術の発展が不可欠である。現在のソフトウェアで可能な解析を行うのと並行して、新たなワークステーションを用いたより高度な解析環境を構築し、解析の効率化や新規解析手法の考案・実践を図る。 ・COVID-19の世界的流行は画像検査や呼吸機能検査の制限につながっており、本研究における症例の収集に及ぼしている影響は少なくない。その動向を注意深く見守りつつ、可能な限り速やかに、検討に必要な症例を収集していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の世界的流行による影響から、症例収集の遅れ、およびそれに伴う研究計画の若干の遅れが生じている。そのため収集症例の解析に必要な物品は最小限をそろえるにとどまっており、またCOVID-19の影響から国内・国際学会への参加の機会が制限されたこと、また海外の研究者との情報交換についても海外渡航が困難な状況が続いておりオンラインでの最低限の情報交換にとどまったことから、これらに必要となると考えていた経費については今年度中は使用することなく、次年度に持ち越す形となった。 次年度もCOVID-19の影響は続くものと思われるが、その動向を見ながら、症例の収集をはじめとして研究を遂行していく予定である。特に今後収集する症例の保管や解析に必要なデバイスやソフトウェアの準備や、学会参加や他の研究者との交流、海外研究者との意見交換による情報のアップデートに要する費用として、今年度使用されなかった助成金の使用が研究の進行に伴って必要となると考えている。
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