研究課題/領域番号 |
20K16830
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
中嶌 晃一朗 名古屋市立大学, 医薬学総合研究院(医学), 研究員 (50866176)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 陽子線治療 / タイムラプスイメージング / ショウジョウバエ / 線量分割 / FLASH照射 |
研究実績の概要 |
陽子線照射後に起こる細胞応答、生体反応をタイムラプスイメージングを用いて経時的に観察し、X線照射後のそれと比較することが本研究の目的であり、本研究ではin vitro、in vivo(ショウジョウバエ)の2つのモデルを用いた実験系を計画した。 2020年度は、in vitroモデルでは、マウス黒色腫細胞(B16-F0)とヒト不死化皮膚線維芽細胞(Bj-5ta)の生物学的効果比(RBE; Relative Biological Effectiveness)測定を行った。RBE測定は放射線の生物学的効果を線種間で比較するための基礎的なデータとなる。B16-F0についてはコロニー形成法によりRBEを算出することが出来た。一方で、Bj-5taについてはいくつかの条件を試みたがコロニー形成が上手くいかなかったため、他の手法を検討する必要がある。また、タイムラプスイメージングを行う上で必要となる手技の確立、試薬の適正量などの予備実験を行った。 ショウジョウバエモデルでは成長段階の異なる個体(主に三齢幼虫~蛹)に陽子線、X線照射をいくつかの線量や照射方法(ブロードビーム・スキャニングビームなど)で行うことで各成長段階、照射条件ごとの羽化後生存率や羽化までの日数を確認することが出来た。また、当初の計画にはなかったが、超高線量率陽子線照射(いわゆるFLASH照射)をショウジョウバエに対しても行った。試行回数やサンプル数は非常に少ないものの、従来の線量率の陽子線照射に比べてFLASH照射では照射後の生存率が高いという結果が得られ、FLASH照射の生物学的効果の機構解明にもショウジョウバエモデルが利用できる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
RBE算出は特にin vitroモデルにおいて線種間比較のための基礎となる非常に重要なプロセスであるが、この段階で予想以上に時間、労力を要したことで、本研究の主目的であるタイムラプスイメージングを用いた線種間比較実験の開始が当初の予定から遅れてしまい、予備実験の段階までしか到達することが出来なかった。 一方で、当初計画では2020年度にショウジョウバエモデル実験は予定していなかったものの、当施設でのFLASH照射の実験環境が整ったこと、また、実験機会が限られていることもありショウジョウバエ照射実験を先行させた。また、タイムラプスイメージング可能なカメラ、ソフトウェアを購入し観察環境が整ったため、照射条件や撮影条件の検証を行うことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
In vitroモデルに関しては、これまでの予備実験を基に各種アッセイ(アポトーシス、オートファジーミトコンドリア量/機能など)を用いたタイムラプスイメージング観察を進めていく予定である。In vivoモデルでも、タイムラプスイメージングを用いた観察を行っていく予定であるが、多くのサンプルを同時に観察することが困難であり、照射用サンプルの個体差による結果のばらつきが大きい実験系であることから、個体の均質化(性別や成長段階など)をいかに図るかが今後の検討課題であると考える。 また、陽子線生物学研究において、FLASH照射の与える生物効果の機構解明が現在の最大の関心事であり、ショウジョウバエを用いた実験モデルは未だ確立していないため、我々の研究は新規性が高いと考えている。そのため、今後この分野の実験を可能な限り並行して行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染により、国内外での学会や研究打ち合わせがオンライン化したことから、旅費として計上していた経費が使用されなかった。研究計画の遅れから今年度購入予定の物品の購入を先送りにしたため、次年度以降の物品費が予定を上回ると考えている。
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