研究課題
本研究の目的は陽子線照射後に生体内で起こる細胞応答、生体反応を経時的に観察し、X線照射後のものと比較することで、陽子線治療独自の最適な線量分割法開発につなげることであるが、自施設において通常の放射線治療で用いられる線量率の数百倍から数千倍高い線量率を用いる超高線量率照射法(いわゆるFLASH照射)と呼ばれる照射法を用いた照射実験を行うための環境が整ったことから、本年度はショウジョウバエに対するFLASH照射実験を優先的に行った。通常線量率陽子線照射とFLASH照射の生物学的な違いを見るために、昨年度は三齢幼虫に対する照射実験を中心に行ったが、再現性のあるデータを得ることが出来ず、実験手法を見直す必要があると判断したため、本年度は野生型系統(Oregon-R, w1118)の未交尾の成虫雌に対する全身照射を行い、母体に対する影響と母胎内に存在する卵に対する影響を評価した。複数回の照射実験において、非照射個体と比較した産卵数の減少、産卵時期ピークの遅れ、蛹化率・羽化率の低下などが認められ、再現性が確認されたことから、FLASH照射の照射方法や照射後の飼育方法といった実験手法については適切であったと考えられた。一方で、本年度中に検証することが出来た照射線量や評価項目においては通常線量率陽子線照射とFLASH照射による明らかな群間差は確認することが出来なかった。今後本研究をさらに展開していくためには、これまでの実験結果を参考に、より適切な実験条件の設定や評価項目の選定を行う必要があると考えている。
4: 遅れている
当初の研究計画ではFLASH照射実験を優先して行うことを想定していなかったため、研究計画に対する進捗状況は遅れていると判断した。しかし、FLASH照射は放射線生物学において現在最も注目されているトピックであり、生物実験を行える施設が世界的にも限られていることから、自施設にて先行的に行うことの意義が大きいと考えている。
自施設でのFLASH照射実験の試行回数に制限があり、ショウジョウバエを用いた複数のアッセイによる検討が現実的に困難であるため、次のステップとしてDNAマイクロアレイによる網羅的解析を先行し、通常線量率陽子線照射群とFLASH照射群の間に認められる差異に関連するポイントに絞って追加アッセイや追加解析を行うといったアプローチを考えている。
マイクロアレイなど外部業者に解析委託をする予定であった実験を2021年度までに行うことが出来ずに振り当てていた経費を使用すること出来なかったが、次年度にそれらの実験を行う予定である。
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すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
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