研究課題/領域番号 |
20K16840
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
坂田 洞察 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 物理工学部, 研究員(任常) (10709562)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 化学種への磁場効果 / 細胞致死 / モンテカルロシミュレーション / Geant4-DNA |
研究実績の概要 |
放射線照射方向と平行に磁場を印加すると、放射線照射に誘発される細胞致死率が増加する(以下、本現象)。本現象のメカニズムを明らかにする為に、放射線に誘発され生じた化学種へ与える磁場効果を実験/シミュレーションの両面から研究を行ってきた。また、本現象の包括的理解を得る為に、物理学的・生物学的側面からの検証も行った。 物理的な効果の検証:荷電粒が磁場中でローレンツ力を受ける事により、平行磁場印加がDNA損傷に影響するか、細胞レベルのシミュレーションを用いて検討した。結果、磁場印加が直接作用を介したDNA損傷数に影響を与えない事を確認した。 化学的な効果の検証:放射線輸送コードGeant4-DNAに荷電化学種のローレンツ力による磁場輸送アルゴリズムを取り入れた。パルスラジオリシスを用いて水和電子、OHラジカル、過酸化水素等の生成量・寿命の変化を調べる為に、パルスラジオリシスの測定環境下に設置可能な磁場回路を設計し製作した。パルスラジオリシスの実験の準備を進めるとと共に、スピン偏極によるラジカルペアの結合阻害をモデル化する準備を行った。 生物学的なモデルの構築:放射線に誘発されたDNA損傷が細胞致死にどのように影響するかを調べ、シミュレーションによって予測されるDNA損傷数からHSG細胞の細胞致死予測モデルを構築した。これにより、磁場効果がDNA損傷に与えた影響がどのように細胞致死に伝搬するかを検証する術を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、2020年度にパルスラジオリシス実験によって磁場印加時の化学種の生成量及び寿命を測定し、磁場印加時の化学種の反応をモデリングする予定であった。実験に向けてパルスラジオリシスの測定環境下に設置可能な小型磁場回路を設計し製作した。しかし、COVID19のパンデミックにより、実験施設間への移動が制限され本年度中の実験実施が困難となり、大幅に遅れる結果となった。 この間、2021年度以降実施する予定であった、DNA損傷数と細胞生存率を結びつける生物モデルの構築を行った。研究代表者の所属する放射線医学総合研究所のサイクロトロン施設を使用し、HSG細胞について細胞生存率を測定した。シミュレーションで求めたDNA損傷数と組み合わせHSG細胞の細胞生存率予測モデルを構築した。これにより、磁場効果がDNA損傷に与えた影響がどのように細胞致死に伝搬するかを検証する術を得た。 総じて、一部大幅な遅れを伴うが、研究のリソースを調整し再配分する事で、進行状況の遅れを最小限に留めることが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度も引き続き、パルスラジオリシス実験による磁場印加時の化学種の生成量・寿命の測定を目指す。2020年度の実験実施は当該施設所属の共同研究者のご好意と裁量に大きく依存していた。2021年度以降は、当該施設の共同利用申請を行い、より着実に研究を進める準備を行っている。 得られた実験結果を再現するように、磁場によるラジカルペアの結合阻害をモデリングする。イオンの磁場中伝搬とラジカルペアの結合阻害を考慮した細胞レベルのシミュレーションによって、磁場印加時のDNA損傷数の変化を求める。2020年度に構築した生物モデルを用い、磁場印加によって変化したDNA損傷数がどのように細胞生存率を変化させるか調べる。実験で測定された磁場印加時の細胞生存率と比較する事によって、磁場印加による化学種の反応の変化によって、本現象を説明できるか検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19のパンデミックによる移動制限により、学会等への参加費用が減少した為。
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備考 |
本研究に関連した研究発表によって第121 日本医学物理学会学術大会において大会長賞(銅賞)を受賞した。
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