研究課題
難治性の小児期早期発症の炎症性腸疾患(IBD)は、未知の単一遺伝子疾患が多く存在していると考えられる。治療法確立のためには遺伝子変異による腸管炎症発症の病態解明が不可欠である。近年、若年発症の難治性IBD患者の全エクソン解析において、E3リガーゼのTRIM22遺伝子変異が発見された。ヒト腸上皮系細胞株を用いた過去の研究では、同遺伝子変異による腸管炎症発症の分子メカニズムが解明できなかった。申請者らはTRIM22の炎症性サイトカイン産生能における働きを明らかにするため、ゲノム編集によりTRIM22遺伝子をノックアウトしたヒト単球細胞株(TRIM22 KO THP-1細胞)を作成した。予備実験において、TRIM22 KO THP-1細胞は、LPS刺激後NF-kB活性が減弱し、TNFα産生も低下するが、IL-6, IL12のmRNA, タンパクの産生は過剰になることを発見した。また、同細胞株は分子XというIL-6とIL-12のmRNAを分解する酵素のタンパク発現が低下するという結果を得た。このことから、TRIM22遺伝子異常による腸管炎症の発症にはIL-6, IL-12産生制御異常が関与している可能性があると考えられた。これまでの研究結果をもとに、未解明のTRIM22変異による腸管炎症の分子機構を明らかにし、IBDの新規治療法に展開するための基盤となる研究を行う。そのために次を行う。●TRIM22が分子Xタンパク発現を低下させる分子機序を解明する。●TRIM22のノックアウト、或いは疾患関連変異を導入したiPS細胞由来マクロファージを用いて、或いはノックインマウスを用いて分子Xのタンパク発現やIL-6. !L-12などのサイトカイン産生機能を評価する。
4: 遅れている
令和2年度は「TRIM22遺伝子欠損により分子Xのタンパク発現が低下する原因を明らかにする」目的で以下の実験を行った。TRIM22 KO THP-1細胞における分子XのmRNA量をqPCRで評価したところ、野生型TRIM22 THP-1細胞のものと同等であった。従って、TRIM22 が分子Xタンパクの安定性に影響を与えている可能性があると考えられた。次に共免疫沈降実験を行ったところ、野生型TRIM22 THP-1細胞におけるTRIM22と分子Xタンパクは無刺激で結合することがわかった。 TRIM22はユビキチン化に関わるE3リガーゼ活性を持つため、分子Xタンパクへのユビキチン化を評価する実験を行った。野生型TRIM22 THP-1細胞へのLPS刺激後、分子Xのユビキチン化は増加し、TRIM22 KO THP-1細胞においては減弱していた。更に分子Xにおけるユビキチン化部位の同定を行う目的で、変異型ユビキチンをHEK293T細胞に発現させたところ、野生型TRIM22存在下ではLPS刺激後に分子XのK29結合型とK63結合型ユビキチン化が亢進することがわかった。以上より、TRIM22存在下でみられる分子Xのユビキチン化は、分子Xのタンパク発現の安定性に寄与している可能性が考えられた。「TRIM22変異をもつiPS細胞由来マクロファージにおける分子Xのタンパク発現やIL-6, IL-12, TNFα産生能を評価する」という項目については、新型コロナウイルス流行による影響で、研究に必要な施設、設備が一時的に利用できず、進めることができていない。
TRIM22遺伝子の疾患関連変異を導入したiPS細胞由来マクロファージを作成して、分子Xの発現やIL-6, IL-12、TNFα産生能を評価する。また、現在申請者の留学先であったNIHで、ヒトの疾患で見つかった変異を導入したマウスを作成中である。完成したら同マウスを用いて、腸管炎症モデルにおける分子Xの発現や、IL-6, IL-12産生機能を調べる予定である。
理由;次年度に繰り越し、分子生物学的試薬の購入に使用するため。使用計画;分子生物学的試薬の購入に使用する。
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