研究課題/領域番号 |
20K16859
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
清水 紀之 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 徳島大学専門研究員 (70755470)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 心理的ストレス / 父親 / 次世代 / 情動機能 / 脳機能 / コルチコステロン / グルココルチコイド / マウス |
研究実績の概要 |
不安障害・うつ病をはじめとする精神疾患の患者数は増加傾向にあり、その予防策の構築が社会的に求められている。研究代表者は先行研究で、交配直前までに心理的ストレスを継続的に受けた父親マウスに由来する次世代仔マウスが、不安・うつ様行動や軽度の痛みをともなう嫌悪刺激に対して極端な回避行動を呈することを見出しており、上記の情動行動異常がグルココルチコイド受容体の抑制剤(RU486)を使用するや回復期を設けることで回避できることを発見している。本研究は、父親マウスが継続して受け続けた心理的ストレスが、エピジェネティクスな制御機構にもとづき、どのような作用機序を介して次世代仔マウスの脳機能に影響を及ぼすかを解明することで、将来に起こりうる情動行動の異常に対する予防法を探索することを目的としている。 本年度は、継続的に受け続けた心理的ストレスがトレッドミル運動や高脂肪食負荷にともなう生理学的手法の介入により、次世代の情動行動異常をどのように変化するか調べた。拘束ストレス(1日2時間)を与えた後に、運動もしくは高脂肪食負荷を行い、行動解析により次世代仔マウスの情動行動を観察した。拘束ストレスならびに運動負荷や高脂肪食負荷は2週間に設定し、交配期間は2日間とした。その結果、心理的ストレスを継続的に受け高脂肪食負荷をともなった父親マウスに由来する次世代仔マウスでは、痛みをともなう嫌悪刺激に対して極端な回避行動が確認されなかった。しかし一方で、不安・うつ様行動の回復はみられなかった。この研究成果は興味深く、交配直前までに父親マウスが受けた継続的なストレスが、その期間での食環境に依存して次世代仔マウスの情動行動異常の形成を一部修飾する可能性を示唆している。運動負荷の効果については、現在その次世代マウスの行動解析を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
作用機序の解明を進めるにあたり、行動解析で使用したマウス個体と分けて、脳組織試料・血液等の摘出を新たに行う必要があり、現在、一部の群間で次世代マウス作成と個体数の維持が不十分な状態にある。機序解明に必要となる各試料の採取は概ね終了しているものの、研究計画にもとづき昨年度行う予定であった研究内容は順次進められておらず遅れている状態にある。一方で、最終年度に行う予定である研究内容に使用する次世代マウスの作成は終了しており、その行動解析の研究成果は順次得られている。本研究は次世代マウスの作成に大きく依存しているため、その過程が滞ることで実験が進まない状態が生じることがある。近年流行している新型コロナ対策として大学側の運営が著しく変化している事も、研究計画に乱れが生じた要因の一つであり、今後の計画に乱れが生じる可能性があり得る。そのため、本研究課題の進歩状況を「やや遅れている」と総合的に判断した。
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今後の研究の推進方策 |
機序解明に必要となる各試料の採取は概ね終了しているため、情動行動の調節に関与している事が報告されている脳領域である前頭前皮質、側坐核、海馬、扁桃体、視床下部、手綱核、腹側被蓋野、脳幹等を標的とし、エピジェネティクスな制御機構に影響を受け、不安・うつ様行動の発生に関連している既知の遺伝子群・物質の動態を網羅的に調べていく。解析は、Real time RT-PCRによる標的遺伝子のmRNA発現量の測定、Western blottingやELISA、免疫組織化学染色による標的タンパク質の発現量の定量、脳内発現領域の検出を行い、一方で高速液体クロマトグラフィーによるモノアミン、グルタミン酸、GABAをはじめとする古典的な神経伝達物質の組織含有もしくはシナプス間隙での定量を進める。また、脳内神経細胞の形態観察をゴルジ染色にて海馬を主とする上記の脳領域で調べる。加えて、運動や高脂肪食負荷の生理学的手法の介入、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)の投与等による薬理学的手法の適用で次世代仔マウスの情動行動の異常を是正できるかどうかの検討を進めていく。昨年度の研究計画に遅れが生じているため、最終年度で行う内容も含め実験計画を可能な限り進められるよう最大限努力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)予定していた機序解明が、組織採取等の遅れにおり十分に進められなかったため、次年度に実施することとなり、次年度使用額が生じた。また、結論的な研究成果が未だ得られていないと判断したため、学会発表を控えたことや論文作成が初期段階にあることも、次年度使用額が発生した原因である。 (使用計画)次年度は機序解明を積極的に進めていくため、必要となる試薬購入を優先的に行っていく。一方で交配用マウスの購入も行い、次世代仔マウスの作成と個体維持を行いつつ、生理学的ならびに薬理学的な視点より研究を進める。また、論文作成・投稿、学会発表を順次進めていくことを含め、次年度研究費とあわせて使用する予定である。
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