不安障害・うつ病をはじめとする精神疾患の患者数は増加しており、予防策の構築が社会的に求められている。研究代表者は先行研究で、心理的ストレスを継続的に受けた父親マウスに由来する次世代仔マウスが、不安・うつ様行動や社会性行動低下を示すとともに、軽度な痛みをともなう嫌悪刺激に対して極端な回避行動を呈することを見出した。また、心理的ストレスを受ける父親マウスに対して、グルココルチコイド受容体阻害薬(RU486)の投与やトレッドミル運動を行うこと、またストレス期間終了後に回復期(2週間)を設けることで次世代仔マウスに生じる情動行動の異常が回避できることを発見した。本研究は、父親マウスが受けた心理的ストレスが、エピジェネティクスな制御機構にもとづき、どのような作用機序を介して次世代仔マウスの脳機能に影響を及ぼすかを解明することで、将来に起こりうる情動行動の異常に対する予防法の構築をめざすことを目的としている。 本年度は、グルココルチコイド受容体作動薬(デキサメタゾン)を投与することで、心理的ストレスに由来する次世代仔マウスと同様な情動行動の変化がみられるか調べた。投与期間は2週間に設定し、交配期間は2日間とした。その結果、心理的ストレスに由来する次世代仔マウスと同程度な情動行動の異常がみられ、これらの変化が薬物濃度に依存して大きく影響を受けることがわかった。一方で、薬物投与終了後に回復期間(2週間)を設けることで作成した次世代仔マウスでは、情動行動の異常は確認されなかった。本研究成果より、次世代仔マウスの情動行動構築が父親のグルココルチコイド系の影響を受ける可能性が示唆された。
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