小児悪性固形腫瘍の約3割に発現するCD99に目を付け、遺伝子操作性に優れるヒトiPS細胞をプラットフォームとする新規CAR-T療法の研究システムの研究を行った。 1. 当研究室にて予め作製した抗CD99CAR(抗CD99抗体の可変領域のアミノ酸配列情報から第3世代型を作製)を、ドナー血T細胞より樹立したヒトiPS細胞へレンチウイルスで導入した。比較のヒトT細胞には導入困難な一方で、iPS細胞には30%前後に導入できた。しかし、導入確認マーカーのGFAPとMycTagで乖離が生じ、抗CD99CARの立体構造について見直しを迫られた。 2.京都大学iPS細胞研究所の金子研究室の協力を得て、フィーダー法とノンフィーダー法にてiPS細胞のT細胞への分化誘導を行った。結果、フィーダー法にてドナー血T細胞より樹立したiPS細胞はT細胞へ分化した。しかしながら出来たT細胞はCD99陽性を示し、抗CD99CAR導入にて互いを攻撃し合う懸念が生じた。そこで、shRNAにてCD99をノックダウン後、T細胞へ分化誘導したが、未処理iPS細胞に比して分化効率が劣り、抑制したCD99も徐々に発現が増加した。CD99 isoform解析にて、正常なT細胞分化過程に対応するCD99発現が生じたためと推測された。 3. 立体構造について、東京大学工学部の津本研究室の協力を得て、抗CD99scFvを精製し解析したところ凝集体を形成していることが判明した。重鎖と軽鎖を入れ替えても同様の結果であった。凝集体のままCD99発現細胞に添加して親和性を見たが確認されなかった。従って、抗CD99CARは凝集体を形成するためにCD99を認識できないものと推測された。 以上、抗CD99CARの立体構造の問題と、iPS細胞をT細胞へ分化する過程でCD99発現が生じる問題が見られ、問題の原因は追及できたものの改善するには至らなかった。
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