研究課題/領域番号 |
20K16872
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
田村 彰広 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 客員研究員 (90841180)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 神経芽腫 / 単球 / 不均一性 |
研究実績の概要 |
高リスク神経芽腫は、集学的治療後も半数以上が再発する難治疾患で、病態解明や効果的な治療開発が進んでいない。近年、抗GD2抗体による免疫療法の有効性が報告されているが、効果は限定的であることが問題となっている。申請者らは、臨床情報の大規模な解析により、初診時における末梢血単球数と長期予後に強い相関があることを発見した。この発見は、診断時の単球の状態を評価することによって個別化医療が可能であることを示唆する。 これまで慣習的に用いられているCD14とCD16を用いた単球解析法で細胞ソーティングした後、1細胞RNA-seq解析を行ったところ、従来単球と定義されていた細胞集団にはNK細胞や樹状細胞、好酸球、好塩基球等が多数混在し、非常に雑多な細胞集団であることが明らかになった。従来のCD14とCD16表面マーカーを用いた単球解析では、その純度や抽出可能な情報等において不十分であることを明らかとなった。 さらに、申請者らの独自解析の結果、抗GD2抗体のFc部分を認識するFCGR3Aは、NK細胞と比較して単球で高発現していることに加え、単球の中でも発現が不均一であることを発見した。さらに近年、CD47/SIRPαやMHC class I/LILRB family、CD24/Siglec-10など、マクロファージによるDon’t eat me signalを標的とした、がん免疫療法の有効性が報告され、注目されているが、SIRPαやLILRB family、Siglec-10などのDon’t eat me signalについても、単球の中での発現が不均一であることを発見した。そこで申請者らは、従来のCD14/CD16の分類ではなく、機能に基づいた新規分類によって、単球は更に詳細に細分化され、病態毎に疾患特異的単球が存在すると仮定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まずは、単球が強く関与する小児がん病型の絞り込みを行う目的で、大規模な臨床情報の解析を行った。興味深いことに、診断時の末梢血単球数が長期予後と強く相関することが明らかになった。さらに、高リスク神経芽腫に限定しても、診断時の末梢血単球数が予後と強く相関することが明らかになった。そこで、以降は対象を神経芽腫に絞って研究をすすめることとした。 近年、神経芽腫に対して抗GD2抗体を用いた免疫療法の有効性が報告されているが、効果は限定的であることが問題点となっている。抗GD2抗体の効果発現は単球・マクロファージによる抗体依存性細胞貪食(ADCP)を介していると考えられている。そこで、単球・マクロファージの貪食機構を応用した抗GD2抗体の効果を増強する新規の免疫療法開発が求められている。 独自の解析により、抗GD2抗体のFc部分を認識するFCGR3Aは、単球の中でも発現が不均一であることを発見した。さらには、SIRPαやLILRB family、Siglec-10などのがん細胞貪食におけるDon’t eat me signalについても、単球の中での発現が不均一であることを発見した。これらの発見から、単球は機能に基づいてさらに詳細に細分化されることが示唆された。 当初の計画から若干の修正はあるが、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
①単球を詳細なサブセットに分類するフローサイトメトリー解析パネルの開発 scRNA-seqで抽出したマーカーをもとに、マルチカラーフローサイトメトリーで単球を詳細なサブセットに分類する解析パネルを開発する。 ②神経芽腫患者検体を用いた病態と関連する単球サブセットの抽出 神経芽腫患者検体(末梢血、骨髄血)を、マルチカラーフローサイトメトリーを用いて高精度解析し、神経芽腫病態で特異的に増加する単球サブセットを同定する。コントロールとして、健常人の末梢血検体を用いる。さらには、疾患罹患時のみに出現する未知の単球サブセットを探索するため、神経芽腫患者末梢血を用いて、単球を細胞ソーティングし、1細胞RNA-seq解析を行い、in silico解析で、疾患特異的な新規単球サブサブセットを抽出する。1細胞RNA-seq解析にて、疾患罹患時のみに出現する単球サブセットを検出できれば、再度、マルチカラーフローサイトメトリーによる分離法を確立する。 ③抽出した単球サブセットと悪性度の相関解析 抽出した疾患特異的単球サブセットと臨床情報を統合解析し、疾患悪性度と相関する単球サブセットを同定する。
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