研究実績の概要 |
現在、WHO脳腫瘍分類では、病理所見と遺伝子プロファイルによる統合診断が求められており、脳腫瘍の診断には遺伝子解析が必須である。また一部の遺伝子異常は、予後予測因子や治療標的としても用いられることが明らかにされている。 本研究は、小児脳腫瘍の中でも最も高頻度の神経膠腫について、多施設共同研究として全国から集められた検体の遺伝子解析を行い臨床像や病理所見とあわせて検討することにより、これまで十分なデータが存在しない本邦の小児神経膠腫のプロファイルを明らかにすること、また新たな治療標的の同定を行うことにより、今後の治療開発へと役立てることを目的としている。 研究の実施にあたり一定の研究期間と経費の中でより多数の症例を解析を行うために、解析の第一段階として、パイロシークエンスや逆転写PCRを用い、小児神経膠原腫に好発する遺伝子を検出し、病理像とも矛盾せず典型的な症例を同定し、第二段階として、非典型的な症例や遺伝子変異が同定されなかった例にしぼり、メチル化解析やRNAシークエンスなどの詳細な解析を行うこととした。このフローにより2020年度は約120例の小児神経膠腫の解析を実施できた。そして、約半数の症例では典型的な遺伝子変異が認められ、一方で、残りの症例の解析から、治療標的となる融合遺伝子(NTRK3, ALK, ROS1, MET融合遺伝子)や既報にはない病理像と遺伝子変異パターンをとるような症例を同定し症例報告を行った。 また、原則として凍結検体を用いた解析を行っているが、ホルマリン固定パラフィン包埋切片や、髄液検体からも変異を同定することができることを確認した。これらは、特に微量な生検検体からの診断、あるいは生検が困難な中で診断が求められるような症例においても遺伝子解析を行い診断や治療に役立てられる可能性が広がる。
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