研究課題/領域番号 |
20K16875
|
研究機関 | 宮崎大学 |
研究代表者 |
青木 良則 宮崎大学, 医学部, 助教 (70726629)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 新生児低酸素性虚血性脳症 |
研究実績の概要 |
方法①-aで作成したラットミクログリア初代培養細胞に対して、低酸素低血糖(OGD: Oxygen glucose deprivation)負荷を行った(OGD群、方法①-b)。OGD負荷を行っていないコントロール群(CTL群)と比較し、免疫細胞化学、定量PCR、ウエスタンブロッティングを行いLOX-1の発現上昇を認めた。また、培養上清中の炎症性サイトカイン、ケモカインの濃度を測定した結果、OGD群では炎症性サイトカインであるIL-1β、IL-6、TNFα、およびケモカインであるCCL2、CCL3、CCL5の濃度はCTL群に比して優位に高かった。以上より、OGDによりミクログリアでLOX-1の発現が誘導され、炎症性メディエーターの産生も誘導されることがわかり、in vivoの新生仔低酸素虚血モデルラットとの相同性を確認した。 次に、低酸素虚血下でのLOX-1の発現と炎症性メディエーター産生との関連を調べるため、上記のCTL群とOGD群にLOX-1 siRNAを導入した(方法②-a)。LOX-1 siRNAの導入により、OGD負荷によるLOX-1の発現は1/3程度に低下し、CTL群と同程度に抑制することができた。方法①-bと同様の解析を行い、OGD群での炎症性メディエーターの産生はLOX-1のノックダウンに抑制されることが分かった。さらにマイクロアレイにより網羅的遺伝子発現解析を行い(方法②-b)、OGDによるミクログリアでのLOX-1発現変化と関連があるシグナル伝達分子の候補としてp38-MAPK、ERK1/2、および転写因子であるNF-κBに注目し解析を行った。その結果、ミクログリアにおいて低酸素虚血により誘導されたLOX-1の発現は、p38-MAPK、NF-κBの活性化と関連があり、これらシグナル伝達分子の活性化を介して炎症性メディエーターの産生を誘導することが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
マイクロアレイの結果について、まずネットワーク解析などを試みたが、LOX-1と関連する遺伝子の候補を抽出することができなかった。 遺伝子セット解析では、CTL群に比べてOGD群で発現が上昇し、LOX-1 siRNA群で発現が抑制された遺伝子セットとしては、サイトカイン・ケモカインシグナルに関わるもの、および 自然免疫応答に関連するものが含まれていた。一方、CTL群に比べてOGD群で発現が低下し、LOX-1 siRNA群で発現が回復していたのはシナプスの形成・成熟に関わる遺伝子セットであった。この自然免疫応答に関わる遺伝子セットに含まれる遺伝子には、他の細胞における既知のLOX-1シグナル伝達経路にも関わるものがあり。特にp38-MAPK、ERK1/2、および転写因子であるNF-κBはミクログリアの活性化プロセスで重要であることが報告されている。そこで、p38-MAPK, ERK1/2のリン酸化、NF-κBの核内移行などを解析した結果、全p38-MAPKに対するリン酸化p38-MAPKの比はCTL群と比較してOGD群で上昇しており、LOX-1 siRNA群では抑制された。一方で、ERK1/2は変化がなかった。NF-κB p65は免疫細胞化学において、CTL群、LOX-1 siRNA群では核周囲が陽性であったのに対して、OGD群では核に一致し陽性であった。核分画のウエスタンブロッティングにおいても同様に、CTL群と比較してOGD群ではNF-κB p65の発現が上昇しており、LOX-1 siRNA群では発現が抑制されていた。以上より、ミクログリアにおいて低酸素虚血により誘導されたLOX-1の発現は、p38-MAPK、NF-κBの活性化と関連があり、これらシグナル伝達分子の活性化を介して炎症性メディエーターの産生を誘導することが示唆されたが、ERK1/2は関与していないと考えられた。
|
今後の研究の推進方策 |
ミクログリアにおけるLOX-1シグナル伝達分子の候補と考えられたp38-MAPK、およびNF-κBついて、これらの阻害物をOGD群に投与し、LOX-1の発現変化、炎症性メディエーターの発現変化、細胞のviabilityなどを解析する。これにより、ミクログリアにおけるLOX-1の役割と細胞内シグナル伝達系の存在を明らかにし、LOX-1細胞内シグナル系を標的にした治療法開発の基盤を作ることができる。 最終的にはLOX-1、およびLOX-1細胞内シグナル伝達系を阻害する作用を有する化合物について、本研究で作成したHIE細胞モデルを用いてスクリーニングを行う。OGD負荷を行ったHIEミクログリアにこれらの化合物を投与し、LOX-1の発現変化、炎症性メディエーターの発現・産生変化や、細胞のviabilityの変化を解析する。これにより、in vivoでの検証につなげていくことができる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初の予定より実験の進捗がやや遅れており、物品費の支出も予定より少なかった。また、新型コロナウイルス感染症の影響で学会の開催中止、延期などがあり、旅費の支出がなかった
|