超低出生体重児に発症する相対的副腎不全は,低血圧により重篤な脳白質損傷の原因となる.予防法の確立が求められているが,その病態も未だ明らかではない.子宮内での慢性的な低酸素による胎児発育遅延児において発症率が高いため,胎児の未熟な副腎皮質の発達過程に慢性的な低酸素ストレスが与える影響を熟知する必要がある.そこで本研究では,ヒツジ胎仔を用いた胎仔発育遅延モデルを応用して,胎児期に慢性的な低酸素に曝された早産児のコルチゾール分泌能とその循環動態に与える影響を解析する. 本研究はヒツジ胎仔を慢性低酸素負荷と出生前母体ステロイド投与の有無で胎仔を以下の3群に分ける: a) 対照群; b) FGR群; c) FGR+ANS群.これにより子宮内での慢性的な低酸素ストレスが未熟な副腎の発達過程に与える影響を解析する.さらに出生前母体ステロイド投与を加えることが生後の副腎のコルチゾール分泌能をどのように修飾するかを解析する. 令和2年度は4例のヒツジ母獣の子宮動脈に血管内塞栓物質を注入し,胎仔への慢性低酸素負荷を行った.それにより胎仔の子宮内での成長評価,胎盤における梗塞範囲の同定を実施し,1例は剖検に供して副腎組織を採取した. 子宮動脈への血管内塞栓物質の注入では,胎盤の梗塞範囲が広く,子宮内胎仔死亡に至る確率が高かったため,令和3年度は妊娠88日の胎仔4例に臍帯動脈結紮による慢性低酸素を負荷した. 結紮後3週間で明らかに子宮内胎児発育遅延となり,剖検により胎仔副腎を摘出した.研究再開後は確立された子宮内胎児発育遅延モデルにより,残りのFGR群の胎児副腎を採取して対照群との比較を行う予定である.
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