ライソゾーム病はライソゾーム内の酸性分解酵素が先天的に欠損していることにより、多量のグリコーゲン・脂質・ムコ多糖などが蓄積し、全身の多臓器に障害 をきたす、進行性・不可逆性の疾患である。近年、酵素補充療法や低分子治療薬などの治療の進歩に伴い、早期診断の重要性が増しており、乾燥濾紙血(DBS) を 用いたスクリーニング法が注目されている。酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症(ASMD)もそのひとつであり、2022年にASMDに対する酵素補充療法が世界で先駆け て日本で承認された。従来、本研究室ではASMDの精密検査施設として、患者の培養皮膚線維芽細胞を用いてASM活性を測定してきたが、スクリーニングに対応すべく、新たな診断法を確立する必要があった。 本研究室で診断したASMD患者1名と、当科で入院加療を行った非ASMD患者62名のDBSを用いて、ハイリスクスクリーニングに対応可能な診断方法を確立することに成功し、令和4年度に雑誌論文として報告した。また、県内総合周産期センターと共同研究として、NICUに入院した児を対象に新生児スクリーニングを行った。 のべ280人の新生児のDBS中ASM活性を測定し、酵素活性と臨床データの統計学的解析の成果を学会発表した。本研究で新たに確立した方法を用いて、令和4年度よりDBSによるASMDの診断を開始しており、令和5年度は16名の酵素活性を測定した。令和5年度は新規患者発見には至らなかったが、本研究の成果をもとにASMDの早期診断・早期発見への寄与を続けていく。 また、酵素補充療法はASMDの主要な症状である肝脾腫・呼吸器症状には著効する一方で神経症状には無効であるため、神経症状治療へ向けたさらなる病態解明が必要である。今後は新規病態解明を目指し、ASM活性測定とリピドミクス研究を継続していく。
|