本研究は、インスリン分泌促進ホルモンであるGLP-1、およびその分解酵素DPP-4が、肺高血圧症の病態に果たす役割を検討した。 まずin vivoの実験で、モノクロタリン誘発肺高血圧ラットを用いて、GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬が肺高血圧症を改善するこ と、特にこれら2剤の併用が最も生存率が高めることを確認した。免疫組織化学染色でNF-kBリン酸化p65を比較したところ、モノクロタリン群で優位に肺動脈平滑筋細胞に一致したリ ン酸化p65の発現増強を認め、治療群でその発現が抑制された。またタンパク発現:ヒト肺動脈平滑筋細胞を用いて、TGF-βあるいはFGF2で刺激し、DPP-4阻害薬を投与したところ、リン酸化 p65のタンパク発現量はDPP-4阻害薬の濃度依存性に抑制された。以上よりDPP-4阻害薬がその蛋白分解酵素の機能として肺動脈平滑筋細胞内のNF-kBを介した炎症の経路を抑制することが明らかとなった。次に肺動脈平滑筋細胞の直接の相互作用の可能性を検討した。Flagタグ付きDPP-4プラスミ ド、およびDPP-4変異プラスミドを作成し、これをHEK293細胞に遺伝子導入ののち、肺動脈平滑筋細胞と免疫沈降を行った。この結果、 DPP-4と直接作用するのは、肺動脈平滑筋細胞上のcaveolin-1であることが明らかになった。このことから、肺動脈平滑筋細胞の増殖に、CD26・caveolin-1系の 相互作用が関与しているという仮説を立て、T細胞と肺動脈平滑筋細胞の共培養:FGF2で刺激した肺動脈平滑筋細胞とJurkat-CD26 細胞株を共培養したところ、Jurkat-parent株との共培養に比べ強い細胞増殖を示す傾向を認めた。 以上のことからCD26は、肺動脈平滑筋細胞の増殖に関与することが示唆された。一方、GLP-1受容体作動薬については、リアルタイムPCRの結果から組織因子の関与を考えたが、その機序の同定までに至らなかった。
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